米原万里著「不実な美女か貞淑な醜女か」
本文より
1)フランス語通訳者 三浦信孝氏の話
外務省主催「日仏経済技術混合委員会」
ノデュールマンガネーズ「マンガン団塊」→マンガンダンコン(男根)と発音し、30分間ずっとマンガンダンコン、マンガンダンコンと
これを指摘すると、通訳の彼女はカーッと赤くなって通訳が出来なくなうのではと思い、注意しなかった。会場の人は全てマンガン団塊のことだと理解していた。
「あんたの訳おかしいとすぐに言う人がいるが、会場が特にそれで問題になっていなければ注意をせずに先に進める」
2)サンクトベテルブルグ(レニングラード) 1825年「デカブリストの乱」、1905年「血の日曜日事件」、
1917年2月の革命、10月の「社会主義革命」も起きた広場の説明を、「この広場で多くの革命家、労働者がケツを出しました」と日本語通訳のガイドさんが、実は血をケツと読んでいた。
3)「台湾でお宅にお邪魔した時、いとこの方に大変お世話になった」これを中国語に訳すとき、
父方か母方、男か女か、年上か年下かでいとこの呼び方が8つ分かれている。8つをまとめた日本語の”いとこ”のような言葉が、中国にはないと。
4)ロシア人が知っている日本語で、説明してくれた日本人の社長に「あなたの会社の葬式はよくできている」と。
実は葬式ではなく組織の間違いだった。 Soshiki Sooshiki OとOOを間違えて覚えていた。日本人の社長は気分を害した。何故気分を害したか、そのロシア人はわからなかった。
5)スペインの州の知事がたまたま蒸気機関車の模型を見て尋ねた。
その時の県会議長の説明が「蒸気機関車C57は走る貴婦人と呼ばれていると」それを通訳が、「走る女」とスペイン語で説明した。
実はスペイン語の「走る女」は「男の人を探し求めてカッカカッカしている女のことだ」
通俗的に言えば「姦りたくってたまんない女の人」。通訳の齟齬で県会議長は品の悪い人になってしまった。
原文に忠実かどうか 忠実だと“貞淑”、原文を裏切っていると“不実”
訳文が整っていると“美女”、いかにも翻訳的にぎこちないのが“醜女”
不実な美女とは、発言通りに通訳しないが発言者の意味が伝わる通訳
貞淑な醜女とは、発言通りに通訳しているが発言者の意味が伝わらない通訳
二つを比較するなら、不実な美女が通訳にはよいのだと。
この本を読んで通訳とは難しく、奥が深く、通訳を上手くするためには、発言者も事前に資料を渡すとか、通訳しやすいように区切って間を持つとか、スピードは100~120言葉であればよいが、それ以上になると同時通訳は付いていけないそうである。
そうすると、通訳しない箇所を増やすか、席を蹴って通訳を放棄するか。
貞淑な美女がよいのは越したことはないが、不実な美女に通訳者の力量が発揮されると。
感想;
他にも通訳の失敗談がたくさんありました。
失敗を恐れて、力を高めてから通訳しようと思うと通訳者になれない。
失敗を恐れずに、通訳をしながら力を高めて行く、それがよい通訳者になる道であると。
これは全てに通じると思いました。
失敗することを恐れない。恐れるなら失敗を恐れる心を持つことを恐れる。
失敗しても、自分の価値は能力は落ちていない。失敗で学んだことで成長しているのですから。