https://www.msn.com/ja-jp/news/money/報酬5億円でゴーンの暴走を放置した西川前社長の責任%ef%bc%88中編%ef%bc%89/ar-BBZtaBh?ocid=spartanntp 2020/01/30 (中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン)
2018年11月19日、当時日産の会長だったカルロス・ゴーン氏が退職金の虚偽記載で緊急逮捕されて世界中に衝撃が走った日、社長を務めていた西川廣人氏は一人で会見を行った。日産を食い物にしたとゴーン氏を非難をする西川氏は、ゴーン氏に権力が集中していたから起きた事件であるという説明をした。
メディアでは一斉にゴーン批判の嵐が巻き起こったが、仮に暴走していたのであればそれをとめる役目を負うのは役員であり、その最高責任者は日産の代表取締役社長兼CEOの西川氏にほかならない。
前編に引き続き、中編ではなぜ西川氏にも問題があるのかを整理してみたい。
前回の記事で指摘した通り、ゴーン氏が犯罪を行って逮捕・起訴されたのであれば、西川氏もセットで逮捕されるべきで、西川氏が逮捕されないのであればゴーン氏の逮捕もあり得ない。
西川氏は「1人の個人に権限、力が集中しすぎた点」がゴーン体制の問題で、今後修正すべきと会見で語った。日産にガバナンス上の問題があったことは間違いないのだろう。当然、その責任が長年トップを務めたゴーン氏にないはずはない。ではその「力が集中しすぎた」という問題を西川氏はどのように正そうとしたのか。
西川氏については、逮捕時の会見、辞任時の会見、そして自宅前のインタビューで多数の発言が報じられているが、ゴーン氏に問題点を注意したり、何度も繰り返し諌(いさ)めたりしたが聞き入れられなかった、といった話は筆者が調べた限り確認できない。
●ゴーン氏の元で頭角を現した西川氏
ゴーン氏が日産に着任した際に一管理職でしかなかった西川氏は、05年には副社長、11年には代表取締役副社長、そして17年には代表取締役社長兼CEOと、ゴーン氏の右腕として出世に出世を重ねて、日産のトップに立つことになる。
大株主のルノーの威光を背景に、ゴーン氏が無茶な行動を繰り返したことはおそらく事実なのだろう。多数報じられている公私混同ぶりは、とてもプロ経営者とは思えない酷さだ。
しかしゴーン氏に権力が集中していると認識しながらそれを止めることなく過ごしていたのなら、西川氏は役員として、そして代表取締役として責務を果たしているとは到底いえない。
ゴーン氏に文句を言ったらクビにされかねないんだから仕方ない、と思う人もいるかもしれないが、それは全く理由にならない。ゴーン氏が暴君として振る舞っていたことを思わせる報道は多数あるが、会社に損害を与える行動をしていたのならそれを止める責任が役員にはある。
進言をしたことで結果的に閑職に飛ばされようとクビになろうと、それが5億円という国内トップクラスの高額な報酬をもらって、株主の利益のために働く義務を法的に課せられた役員の責務ということになる(いわゆる忠実義務)。
5億円という西川氏の高額な報酬には、自身の利益よりも、株主の利益やコンプライアンス、ガバナンスを優先させるためのコストも含まれている。
社長退任後も取締役として日産に残っている西川氏は、社長・副社長の時代にゴーン氏の暴走を止めるためにどのような行動を起こしたのか? あるいは何もしなかったのか? そして行動を起こしたのであれば、なぜ止められなかったのか、なぜ検察が出てくる事態にまで発展したのか、株主に対して説明責任がある。当然、株主の中には年金資産の運用を通じて日産の株を保有している日本国民も含まれる。
●ゴーン氏「私は弁護士ではない」
この話は警察沙汰の犯罪を内々で解決すればよかったという話ではない。ウォールストリートジャーナルは「不思議の国のカルロス・ゴーン」と題した社説で、これは法廷ではなく役員室で扱う問題ではないのか、と指摘している。
レバノンでの会見後には、安倍総理も「日産の内で片づけて欲しかった」と語ったことが報じられている。
逮捕された代表取締役のケリー氏も退職金の虚偽記載について、なぜ私とゴーン氏に相談も議論もなく突然の逮捕に至ったのか? この件には関与したのは自身とゴーン氏だけではなく、西川氏もサインをしており、突然2人だけ逮捕されるなど考えられない、と週刊誌のインタビューで語っている(出典「ゴーン氏と私の突然の逮捕は異常です」グレッグ・ケリー前日産自動車代表取締役 独占インタビュー 文芸春秋 7月号 ※現在は文藝春秋digitalで公開)。
ゴーン氏本人もまた、日経新聞の取材に「私は弁護士ではない」として以下のように答えている。
日産子会社を通じてブラジルやレバノンに自宅用物件を購入したとの疑惑について質問が及んだ時だった。元会長は「私は弁護士ではない。問題があるのならなぜ(その時に日産の関係者が『会長、それはだめです』と)私に教えてくれなかったのか」と眉をつり上げながら反論していた。
統治不全生んだ「すれ違い」 ゴーン元会長と日産い 日経新聞 2019/1/30
これは逮捕容疑とは直接的に関係のない質問への回答だが、他の起訴事実について西川氏は問いただすことはしたのか。ゴーン氏やケリー氏の発言が事実であれば、西川氏をはじめ日産の監査役や役員は何をやっていたのか? ということになる。一般の社員が「住宅ローンが残っているから社長には逆らわず穏便にやり過ごそう」と保身を考えることとは全く次元が違う。
ゴーン氏が日本の司法に不信感を強く抱いた理由は、自身が逮捕されたことだけではなく、有価証券報告書の虚偽記載で自分が逮捕されるなら、なぜ提出の責任者である西川氏も逮捕されないのか? という根本的な疑念によるものだ。
加えて一緒に逮捕されたのはケリー氏。つまり外国人だけが狙い撃ちされて、最高責任者にもかかわらず日本人の西川氏は逮捕されないことで、不公平な処遇に対する疑念をさらに強めたことは間違いない。
●運用リスクを日産に押し付けたゴーン氏の謎の言い訳
ゴーン氏もクロだと断言したように、あきらかに問題行動を起こしている。
ゴーン氏は個人的な資産運用のリスクを日産に押し付けている。これが3回目の逮捕容疑となる。この話が報じられた際には個人の取引を法人に付け替える、しかもオーナー会社ではなく上場企業でそんなことはそもそも可能なのか? と疑問だったが、それが事実であると分かった際には腰を抜かしそうになった。
その後この取引は、給料を円でもらっている一方で普段の生活はドルで支払いっていることから、為替変動のリスクを避けるための取引であるとも報じられた。一見するともっともらしい説明だが、損失額が10億円以上と大きすぎる。なぜそのような巨額の取引を行ったのか、ゴーン氏は自ら法廷で語っている。
日産で働くことになった際に報酬はドルで希望したが受け入れられなかった。それ以来、為替の変動に懸念を抱いていたという。
数々の無茶な行動をしてきたゴーン氏の発言としては、ハッキリ言って意味不明だ。世界中で事業を展開している日産では、ドルやユーロなど円以外で報酬を受け取る社員は多数いるだろう。仮に何かしらの社内規定で当初は断られたとしても、最高経営責任者となったゴーン氏が自身の報酬をドルに変更する権限すらなかったとは到底考えられない。
加えて急激な円高と、リーマンショックによる株価の急落で多額の損失が発生し担保が不足したとも説明しているが、このあたりの説明もさらに意味不明だ。
報酬複数年分に渡る多額かつ長期の為替取引をしていたならば、為替リスクを避けるためではなく、ただの資産運用だ。運用スタイルもハイリスクなものとも一部では報じられており、為替リスクの怖さをまさかゴーン氏が理解していなかったとは言い訳にもならない。
いずれにせよ他の役員や一般社員が日産にリスクの保証をしてほしいと依頼をしたところで、何をバカなことを言ってるのかと鼻で笑われて終わる話だろう。
リスクの付け替えについてゴーン氏は、担保を個人で負担するには日産を辞めて退職金を受け取るぐらいしか対応方法はなかった、しかし日産を辞めるわけにはいかなかった、とも法廷で発言している。自分勝手なムチャクチャな説明ぶりにはあきれるしかないが、この取引は後に証券取引等監視委員会(SESC)に問題視され、結局は日産から再度ゴーン氏の元に戻されることになる。
リスクの付け替えで損が発生してもゴーン氏が負担する約束だった、そして実際に損は発生していなかったというが、そもそもリスクの付け替え自体が自身の権力を利用したゴリ押しではないのか。損失発生の有無にかかわらず、言い訳の余地はないように見える。有価証券報告書の虚偽記載を問題にするのなら、退職金よりもこの取引が記載されていなかった事の方がよっぽど問題ではないのか。
●副社長の西川氏はゴーン氏の行動を認めた
ではこの件はゴーン氏だけに責任があるのかというと、決してそうではない。この取引は役員会の承認を得ていると報じられている。
ゴーン氏と取引をしていた新生銀行が多額の損失を発生させたゴーン氏に担保を要求すると、ゴーン氏は取引の当事者を日産に変えたらどうか? と提案した。取引相手が日産なら担保は不要だが、そのような事をするには取締役会の決議が必要で、常識的に決議はされないと回答したが、結果的に決議が通って付け替えは実行され、後に証券取引等監視委員会の指摘で解消される。
監視委は取締役会での決議は事実上、偽装された疑いがあると判断。契約変更は会社法違反に当たる恐れがあると指摘した。結果として、契約は日産からゴーン容疑者の資産管理会社へ戻されることになった。
取引の経緯を知る関係者は「議事録は、取締役会で実際に諮られたとしても、他の取締役たちは何の決議をしたか分かっていないだろうなと思われる内容。日産という会社はゴーンさんに逆らえないんだなと思った」と話した。
ゴーン容疑者「決議あればいいんだね」 損失付け替え、銀行難色を押し切る 産経新聞 2018/12/23
記事にある通り、役員に詳細を伝えていないとか、役員をだましたかのような話も一部には出ているが、それも含めてゴーン氏の暴走を許した役員の責任は免れようがないだろう。役員会でこのような重要な取引が見逃されていたのなら、ガバナンスの崩壊としか言いようがない。そしてこの取引が行われた時期、西川氏はすでに副社長で当然責任の一端を担う。
報酬の為替リスクを避けるためにこのように無茶な話が役員会で出たのであれば、じゃあ今後はドルで報酬を受け取ればいい、今発生している損失については自己責任でそんなものは知らないと役員一同で突っぱねればいいだけだ。
退職されたら困る、どうしてもゴーン氏を引き留める必要がある、ということであればリスクの引き受けなどおかしな取引はせず、日産がゴーン氏に資金を貸し出してその後の報酬から返済させるなり、この時点で発生していた退職金を担保にするなり、やり方はいくらでもあった。
ただ、貸付を行った場合は有価証券報告書にゴーン氏に多額の資金を貸したこと、利益相反の取引を行ったことを記載する必要があるだろう。そのような悪目立ちを嫌ったということか。
それが必要な取引であれば堂々と株主に対して説明して、それでもゴーン氏に続投させるか株主に判断してもらえばいい。このトラブルはゴーン氏が無茶をしたというだけでなく、役員会が機能していたのか、日産にガバナンスは働いていたのか、深刻な状況を示している。少なくともゴーン氏一人を逮捕して終わるような話ではない。
ゴーン氏の裁判が行われていれば事実関係は明らかになったと思うが、過去の経営陣が適切に経営判断を行っていたか、役員会は機能していたのか、ゴーン氏の逃亡とは関係なく今からでも検証されるべきだ。
感想;
この問題は日産内部の問題です。
確かにゴーン氏が暴走したかと思います。
しかし、その暴走を認めたのは日産です。
最初にボタンのかけ間違いがあったことが今の結果になっているのではないでしょうか。
日産内部の問題を司法の問題にまで発展させた人の責任です。
政治家が絡んでいるとゴーン氏は言っています。