英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第27期竜王戦挑戦者決定戦 第3局(糸谷六段×羽生名人)

2014-09-13 15:08:57 | 将棋
森内俊之竜王への挑戦権を争う第27期竜王戦挑戦者決定三番勝負(羽生善治名人 対 糸谷哲郎六段)第3局は、9月8日(月)に東京・渋谷区「将棋会館」で行われ、先手の糸谷六段が羽生名人を95手で下し、2勝1敗で森内竜王への挑戦権を獲得しました。(気力低下のため、竜王戦中継サイトより、そのまま引用)

 「敬老の日イベント+連休」を控えた今週は多忙を極めるというのに、週の頭から気力を大きく減退させる出来事が勃発してしまった。永世竜王が……二度目の七冠が………………

 後手番の羽生名人であったが、“無敵横歩取り”を起用。2012年度12勝4敗(先手7-2、後手5-2)、2013年度11勝1敗(先手5-1、後手6-0)、2014年度はここまで4勝0敗(先手番なし、後手4-0)、特にここ2年は、まさに無敵状態。先手番もさることながら、後手番はこの2年度で10戦全勝である。
 また、若手相手に3局指して2局も敗れるとは考えられず、≪第1局は海外だったよな~≫などと、気持ちは7番勝負へと。
 ただ、今期11勝2敗、竜王戦挑戦者トーナメントの勝ち方も見事だった糸谷六段が相手であること、第1局の勝ち星をするりと落としてしまった“らしからぬ負け方”とが相まって、嫌な予感もあった。



 この△2四飛の飛車のぶつけに違和感を感じた方も多かったのではないだろうか。
 この△2四飛は、昨年の挑戦者決定三番勝負の郷田九段が披露し森内名人に敗れた。しかし、その後も改良され一つの指し方として市民権を得ている。とは言え、羽生名人は初採用。研究の裏付けはあるだろうが、この大一番で研究派の糸谷六段にぶつけるのは羽生名人らしいと言えるが、飛車のぶつけによる斬り合いは、「優れた大局観と深い読みを駆使して、羽生名人の中盤の押し引きの中で将棋を構築していく羽生名人らしさ」が生きない。一抹の不安を感じた。

 △2四飛以下、飛角交換、角打ちで角の合わせを強要し先手陣に隙間を生じさせ、銀をグイと前線に繰り出し、角を打ち先手陣に迫る羽生名人に対し、後手の攻めの根幹の1四の角に圧力を加える糸谷六段の▲1六歩。

 糸谷六段の新手であるが、≪さあ、攻めて来い!≫という悠然たる指し手である。逆に、後手は前につんのめっている印象を受けた。


 銀捨ての大技。
 この銀捨ては羽生名人の研究手なのか、それとも、新手▲1六歩に対して急遽捻り出した苦肉の策だったのか?
 そして、糸谷六段の▲1六歩は研究手だったのか?▲1六歩の時点で、この銀捨ても視野に入っていたのだろうか?

 △2六銀に▲1四角は7分の考慮。ほぼこの一手なので、読み筋だったのかは考慮時間からは推し量ることはできない。
 △1四同歩に▲3三歩

 玄妙な一着だった。
 △3三同桂と取らせれば、後手玉は弱体化する。しかし、場合によってはこの桂が4五→5七や2五→3七と活用される危険性もある。
 さらに、糸谷六段は50分強の考慮中、他の心配もしていた(後述)
 羽生名人は、この手に対し1時間14分考えて△3三同桂と応じた。

 糸谷六段は狙いの▲8三角を決行。以下△9四角▲同角成△同歩▲8三角△9三角▲7二飛成△同金▲同角成△3七銀成▲同桂△2九飛▲3九歩△3六歩と進む。
 互いの予定だったのだろう、10分ぐらいの少考はあるが一気に進んだ。


 駒割りは金銀と飛車の二枚換えで先手の駒得。ただ、後手としても只で捨てた銀が3七の銀と交換になり、9三に打った角も先手の玉頭を睨んでいる。さらに、桂を3七に跳ねさせたことで2九に飛車を打つことができ、3九に底歩を打たせたことで後手の3三の桂を歩で攻められることもない。後手も不満のない展開と思われた。
 ただ、素人目には飛車の利きを底歩で止められることには大きな不安を感じた。△3七歩成が実現すれば、それも杞憂となるのだが。
 
 しかし、第5図以下▲6一銀△4二玉▲6三馬(▲4一金までの詰めろ)△3一玉▲3六馬△1九飛成▲2三歩と進むと……。


 せっかくの3六の歩が馬で払われ、しかもこの馬が攻防によく利いている。後手は△1九飛成と香を得たものの底歩で無力化されたまま。この折衝は後手の損が大きいように感じるがどうなのだろう。羽生名人としては、手順に左翼に退避できるのが大きいと見たのかもしれないが、▲2三歩(第6図)と垂らされてみると、玉の危険度は低くなっておらず、6一に打たせた銀も、挟撃体制に一役買っている。▲5二銀成とされると先手の攻めは厚みを増すし、いきなり▲2二銀△同金▲同歩成△同玉▲2三歩と迫る手も相当な手段である。
 羽生名人も局後に「歩を垂らされてやる手に困りましたね」と述べている。
 この局面で△5四香、△7三桂、△2九龍などが調べられたが、先手が有望な局面になっていたようだ。

 さて、ここで第4図(▲3三歩)に戻る。

 ここで、糸谷六段は△2五角を気にしていたそうだ。
 以下▲6八玉△3三桂▲8三角△5八飛▲7七玉△7八飛成▲同玉△7一金打▲9一竜△8三銀▲2六銀△5八角成▲6九銀△同馬▲同玉△5五角▲3四歩△9一角▲3三歩成△4九飛▲5九飛△4六飛成▲3七銀△7六竜▲7九香△6七竜▲6八歩△6五竜▲3二と△6二玉(変化図)


 (このように進むかはわからないが)、中継ページには
「自信ないです。皮膚がないから」と糸谷。羽生は「飛車の取り方がいまいちと思いましたが、こうやるんでしたか」とある。
 駒割りは先手の桂香得だが歩切れ(皮膚がない)、駒の働きは後手が良いので、こう進むのなら個人的には後手を持ちたい。

 特筆すべきは、この変化を糸谷六段が警戒して、羽生名人は素通りだったこと。
 糸谷六段の充実ぶりを示しているが、そもそも、こういった▲3三歩のような利かしを掻い潜るのは羽生名人は特異で得意な分野のはずだ。


 この後も、悪いながらもまだ難解でギリギリの攻防が繰り広げられると思われたが、あっさりと土俵を割ってしまった感がある。
 たとえば、第7図。

 一手前の△5四飛は後手の玉頭の守備に利かしつつ、先手の玉頭の攻めも見た攻防手だが▲6八金と遊び駒を働かされると、切り札であるべき持ち駒の飛車と遊び駒の金とが同等となってしまっている。飛車を投入するなら、この際、後手玉の危険は承知で、玉頭に迫りつつ馬取りに△5五飛と打つべきだったのではないだろうか?
 さらに、第7図以下△5五香と攻めたてたが▲6六銀と受けられ突破できない。そして………

 ………そして△6五歩!


 部分的には守備に利いている銀を攻める手筋だが、放っておいても▲5五銀としたいところで、俗に言う“お手伝い”の手だった。
 ▲5五銀△同飛▲2四香が痛い。



 以下は、ほぼ一直線に投了図。


 ………………………永世竜王、二度目の七冠が「おあずけ」となった。
コメント (2)
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