英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

第40期棋王戦五番勝負 第3局 ~3連敗かぁ…~

2015-03-08 19:32:18 | 将棋
 冴えないシリーズだった。
 第1局は横歩取り戦。中盤までは捻じり合いだったが、攻められていた銀をかわしつつ中央に活用させた王道の手が、渡辺棋王(王将)の猛攻の呼び水となる敗着となってしまった。非常に難しい消耗戦で、渡辺棋王の辛抱が羽生名人(王位・王座・棋聖)の平衡感覚を狂わせ墜落させたような一局だった。
 第2局は相矢倉。先手の羽生名人が香損の仕掛けを敢行したが、これが自爆に等しく、勝負どころもない惨敗。
 第3局は角交換腰掛け銀。後手の羽生名人が馬を作ったものの、その間に渡辺棋王が万全の攻撃態勢を整えた。羽生名人は開き直って、渡辺棋王の攻撃を顔面から受け止めたが、踏み止まれず、2筋を破られ飛車に成り込まれ(しかも“と金”付)、そのまま土俵を割るかと思われたが……


 この▲5八桂が変調のように思われる。中継の解説には「どうやら馬を追って、より安全にしてから▲5六歩と銀を取ろうということのようだ。▲6四桂から決めにいくのは危険があると判断したのだろう」とあるが、やはり▲6四桂(詰めろ)と挟撃体制を築いておけば、渡辺棋王の快勝だったように思う。
 「安全にしてから銀を取る」のは虫が良すぎで、普通に考えて、自陣に馬を追うためだけに桂を投入するのは勿体ない。同じ桂打ちでも▲6四桂と比べるとその働きは雲泥の差で、持駒の桂と手番を手放しただけの一手だった。
 解説にも「控室では△7九銀が検討されている。銀がタダだが▲同玉なら△6七銀成が詰めろになるため5六の銀を脱出できる。この筋はかなり有力なようだ。△7九銀に▲9八玉もあるが、これは大きな利かしで後手も相当と見られている」とあり、確かに、△7九銀は打ってみたかったが、羽生名人は素直に△4五馬▲5六歩△同馬と応じる。単純に▲5六歩と銀を取られた時と比べて、手順に▲5八桂の一手を入れられたことになるが、この桂が打ち得とも思えないし、後手の馬は4六よりも5六の方が働きが良い。

 渡辺棋王は▲6四歩と挟撃態勢に入るが、△3二金▲1一龍△1二金と打たれて龍が詰んでしまった。


 もちろん、渡辺棋王も読み筋で、▲5七歩と切り返す。馬筋が変われば1二の金が取られるので、△3四馬と逃げるのが普通だが、「▲2三銀という凄い手がある。△同馬や△同金左には▲2二と、△同金右には▲3一とと王手で追い、玉が二段目に上がれば▲1二竜と金を取れる」そうだ。
 そこで、羽生名人は△6六馬と切り込む。▲1二龍に△6七馬が龍取りで、▲1一龍(次の▲2二とは厳しい手だが詰ろではない)に△7八銀がほぼ必至。


 何だか、一気に緊迫してきたぞ。これは、もしや……
 ▲1一龍が利かないならば▲5六銀と馬に当てて龍取りを受ける手しかないが、一時しのぎで銀を手放すのは手の流れがおかしい。
 △5七馬と後手を引くが、次の△5六馬の銀を取る手が大きい。そこで、渡辺棋王は▲5二歩を放つ。


 次に▲3一金(△同金は▲同と△同玉▲3二金の詰み)を狙い、△5六馬の余裕を与えない手だ。
 と渡辺棋王が主張した手に対し、羽生名人は平然と△5六馬!……▲3一金には△5二玉▲3二玉△6一玉で残している……のかな?
 実戦も▲3一金△5二玉▲3二龍△6一玉と進む。
 そこで、▲8二香!

 これが決め手で、後手玉に受けはない(先手玉は詰まない)。

 渡辺棋王の緩手で、一気に差が縮まったが、逆転には至らなかったようだが、本当にそうだろうか?
 戻って、第4図。


 深浦九段が指摘していたが、「△7八銀でどうでしょうか。以下▲3一金△5二玉▲3二竜△4二金で。難しいです」


 この局面は後手勝ちのように思う。

★局後の検討(中継解説より)
ここで△7八銀(△7九馬以下の詰めろ)なら後手が勝っていた。▲同玉は△5六馬が王手竜取りなので▲3一金△5二玉▲3二竜と迫るしかないが△4二金で詰めろ竜取りになってしまい、うまい返し技がない。
戻って▲5二歩のところで▲6三歩成も△5六馬▲5二金△同飛▲同と△同玉▲3二竜△4二金打▲8二飛△6二桂▲3一竜△4一金が一例で後手が有望。他にも変化は多いものの、先手良しといえるものは見つからなかった。

また、第1図の▲5八桂についても述べられていて

「▲6四桂は△3二金と開かれて△4二玉~△3三玉と抜けられたときが大変」と渡辺。また▲5六歩は△6五桂が攻防になるという。
「(△6五桂のとき)こちらは2手スキなんですが後手玉を詰めろ詰めろで寄せ切る自信がなかったです」(渡辺)


 この第1図の直前、▲2一歩成とした局面について
「後手が歩切れなのでなんとかなると思っていたのですが、意外に難しかったです」(渡辺)とあり、渡辺棋王快調に思えたが、実際は見た目より接近した形勢であったらしい。

 中盤の△3二玉や2筋を突破させる代償に先手の4、5筋の金銀桂を取り、もたれて指す羽生名人特有の大局観を発揮していたようだ。
 しかし、最後の▲7八銀が指せなかったのは残念。いかにも羽生名人好みの手だったのに。


 タイトル戦でのストレート負けは過去にもあったが、今シリーズは最も不出来だったように思う。
 シリーズの感想として「チャンスらしいチャンスがなかったので、しょうがないかなと」と。そう、こういうこともある。名人戦ではきっといい将棋を見せてくれるだろう。
コメント (4)
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