英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

不調なのか、それとも、衰えたのか……「その2・一昨年の王位戦を振り返るⅠ」

2016-06-24 22:58:35 | 将棋
「その1」の続きです。

 直前まで3回連続名人戦の舞台で敗れていた森内名人を4-0で破り、名人位に復位した後、さらに、棋聖戦でも森内竜王の挑戦を3勝0敗で退けた。

 直後の王位戦でも木村八段を4勝2敗(1持将棋)で防衛を果たした。しかし、この王位戦が“違和感”の走りだった。
 最初は1局ごとの短評を並べるだけにしようと思いましたが、局面図を挿入した方が思い出しやすいと思い、並べ返しているうちに、あの図この図もと絞れず、結局、いつもの如く、簡潔にまとめることは出来なさそうです。
 奇しくも、今季の王位挑戦者はこの時と同じ木村八段。復習を兼ねて、思うままに書き連ねようと思います。

 第1局は矢倉戦。

 後手の香が9五にいるのは、△9五歩▲同歩△同香に▲9七歩と先手の羽生名人が局面を治めたからである。一見、後手の言い分を通した形だが、好きな時に▲9六歩として先に香を手にする権利を持っていると考えることもできる。
 ▲3七銀は2六から引いたもの。この後も、銀を上げ下げ、歩を交換するなど、互いに間合いを計り合いが続いたが、木村八段の△5八歩が巧手だった。

 これに対し、強く▲同飛と取り、△6九銀と割り打ちを掛けさせる手もあったが、▲4九飛と我慢した。しかし、譲歩した分だけ木村八段に先行(先攻)を許してしまったようだ。


 第3図は、羽生王位は2筋の継ぎ歩から▲2四歩の垂らしに期待したが、それは大したことないと見切った木村八段が強く△2五同歩と取った局面。
 以下、▲4五飛△4四金▲5五飛△同金▲2四歩△4九飛(第4図)と進む。

 図の△4九飛が▲2四歩の垂れ歩よりも厳しい。
 9筋の飛香の存在も大きく、△5九歩成からのと金攻めも見える。
 先手は結局、▲9六歩を時期を逸してしまった。
 この後、9二の飛車も4筋から成り込み(第3図から第4図に至る手順で、▲4五飛に対し△4四金と金で応じたのも飛車の展開を可能にした好手だった)、二枚龍で寄せ切った。木村八段が先勝。


 第2局も矢倉戦で、先手の木村八段が攻め込み、羽生王位が受け止め反撃する展開。(実は、この将棋、当時、一日目の将棋を記事にしていますが、2日目を書かずに済ませていました)


 この後もギリギリの攻防が続いたが、第7図の羽生王位の△3三玉が失着だった。

 目障りな歩を払い、玉を安定させる大きな一手だが(対局中はこの第7図の△3三玉で後手玉の危険度が薄れ、次の△6五香が厳しく後手有利というのが、大方の形勢判断だった)、△6五香▲5七金を決めてから△3三玉と指すべきだったという。
 なぜなら図での▲7五歩が好手で後手の桂頭を攻めると同時に、△6五香に▲7六金を可能にしている(ちなみに、第7図の△3三玉の手で△6五香▲5七金を利かして△3三玉としたとしても、以下▲7一角△9二飛▲6二角成△6六歩▲同銀△同香▲同金△5三銀打▲同角成△同桂▲7三馬で難しい形勢だったらしい…棋譜中継の解説)

 第7図以下、▲7五歩△2六歩▲2八飛△6五香▲7六金△6七香成▲7四金△8四飛▲7五金△9四飛▲7六銀△6六歩(第8図)と進む。

 図では、後手の香(成香)が空振りに終わり、その上、成香取りを受ける△6六歩を打たされるのも辛い。さらに、後手の飛車も9筋に追いやられてしまったのも痛い。
 後手の6一の桂は7三桂に紐を付ける為に打った桂だが、この桂も8一から打つべきだったらしい。6一から打った方が5三にも利いて働きは強いが、6一から打ったため取られる運命となってしまった。この桂打ちの小ミスは、後の第6局の桂打ちの前兆だったのかもしれない。

 このあと木村八段が優勢に進め、5一と金を4一に捨てたところ。

 以下、△同金▲4五桂△同歩▲5三角成と銀を取って角を成り込んで技が決まったかに見えたが、△5二金と受けられて見ると、後手玉の危険度が増したとは言えず、駒の損得も銀と桂の駒得ではあるが、と金を捨てているのでほとんど得はしておらず、馬当たりにもなっている。
 それで、▲4四銀△同銀▲5二馬と攻めを継続させるが、△2四玉とかわされてみると、先手の馬が置き去りにされた感があり、逆転模様。以後、羽生王位が勝ち切り、1勝1敗のタイとした


 
 第3局は角換わり腰掛け銀。後手の木村八段が馬の力と力強い防手を見せる。


 しかし、あの手この手で突破の糸口を掴もうとする羽生王位。

 これに丁寧に力強い防手で、羽生名人の攻めを切らしにかかる木村八段。

 長い長い攻防が続き、羽生王位の攻めが息切れ気味になってきたが……

 第15図の▲8三銀に△同馬と応じたのがミス。
 以下▲5四飛成△5三銀打▲4四金(第16図)△同銀▲6三龍で馬が盤上から消えることとなってしまった(先に金を捨てているので、角金(馬金)交換)。

 木村八段は▲4四金を見落としていたという。

 うっかりミスでぐらりとした木村八段だったが、容易に倒れない。

 金をベタベタと打ち、先手の飛車を捕獲し、入玉に望みを懸ける。

 羽生王位も技を繰り出し勝利を目指す。

 図以下、△2七同馬▲4六角(王手飛車)△2五玉▲1九角△2八銀と必死の攻防。

 しかし、将棋の流れは羽生王位にあったらしく、

 ここで▲2二竜と指せば、以下△4八角▲1九歩△同馬▲2三竜寄△2六歩▲1六銀△2八玉▲2六竜(変化図)△3九玉▲2七銀で、このあと馬を取るのが確実となり、先手の勝勢だったという。


 また、▲2二龍では▲1二龍も有力で△1六歩▲2三龍寄△2六歩▲1五龍△5九角▲2九歩△同馬▲1四龍引△2八玉▲1六龍△1五歩▲同龍引△2七歩成▲1九金で馬が取れ、先手の勝ち。
 羽生王位は「寄せにいって寄らなければ負けてしまいます。寄るかどうかも微妙という判断でした」(後日談)
 この辺の記述は、大川慎太郎著『将棋・名局の記録』(マイナビ)による。

 さらに、駒数で勝利しそうな棋勢であったが、無理をせず入玉を確保し、持将棋に。
 第20図の▲9五歩は、単に▲8六玉だと△8三香が嫌味なので、▲9五歩△同歩を入れておけば、△8三香には▲9五玉ができるという仕組み。
 しかし、この1歩の突き捨てによって、木村八段の駒数不足による持将棋不成立(負け)の可能性が低くなり、そのまま持将棋が成立した。

 寄せに行かず入玉を目指したことと言い、安全運転で持将棋にしたことと言い、若干、不満の残るが、激闘による疲労もあり、危険を回避したのは責められない。

 第三局まで終了して、1勝1敗1持将棋の互角。しかし、内容は押されっぱなしだったので、1勝1敗は上出来と考えるべきだろう。今後の戦いに不安は残るが、内容は上昇気配なので大きな不安は感じなかった。

「その3」に続く
コメント
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