途中までは、坂崎(宮川一朗太)、妻の絵美子(東風万智子)がグルなのか、あるいは、恵美子とその妹の麻衣(佐藤みゆき)の共謀か、恵美子と田中小百合(樋口泰子)が結託して…などなど、いろいろな筋書きが考えられ、楽しめたが……
終わってみれば
Ⅰ.動機が幼稚
坂崎の原稿の謝辞の「いつも私を影で支えてくれた愛する妻・絵美子へ捧ぐ」が引き金となった。夫を立てる女性を演じていたが、実は脚光を浴びていたかった。しかも、結婚の際、「ずっと支える」と誓った夫に言われてしまっては怒り爆発。
「あなたを日の当たるところへ引き出してあげたのも、このあたしよね」
「なのに、“陰で支えてくれた”って何よ。なんであたしがあなたの影なのよ。
あたしは“おだえみ”なのよお!」
……… 右京が言ったように“くだらないちっぽけな虚栄心”だった。
Ⅱ.浅はかな計略
夫からドメスティックバイオレンスを受けていた悲劇のヒロインとして表舞台に立とうという目論見だった。
しかし、騒動が大きくなり過ぎて狂言がばれるリスクも高い。そもそも、目論見が浅はかだ。
夫を陰から支えて輝かせたという事実は高く評価されていたのだから、普通に現場復帰すれば、脚光を浴びる事が出来そうで、浅はかとしか言えない。
《床の血を拭いた跡》《蛇口の血の細工》《血の付いたゴルフクラブ(血の付いたままにしておくのは不自然)》《ストーカーのメールの発信元の細工》《SNSでの妹とのやり取りの偽装》など頑張ってはいたが、あれだけ血を流したのにDVを受けた傷痕はなく、どのような姿で記者会見を開くつもりだったのだろうか?(記者会見前に自傷するつもりだったのかもしれないが)
Ⅲ.理解しがたい事件関係者の心理とその描写の分かりにくさ
①絵美子(東風万智子)
ちっぽけな虚栄心については上記のⅠで述べた通り。
その心理描写の“肝”と言えるのが、坂崎の原稿の謝辞。その部分だけピックアップすれば巧みだとは思うが、映像では右京が一瞥(いちべつ)しただけなので、視聴時にはよく分からなかった。
②麻衣(佐藤みゆき)
≪小さいころから姉のことが死ぬほど嫌いだった≫と言うが、その描写は全くなし。ネタバレにならないようにするための都合だったとは思うが、麻衣のセリフだけでもいいから「こういうところが嫌い」とか「こういう嫌な思いをした」とかあっても良かった。
姉に≪自作自演を告白すべき≫と説得に行ったと言うが、どういう気持ちだったのかも分かりにくい。姉が嫌いなら、説得せずに「SNSで姉とやり取りした覚えはない」と警察に訴えればよいと思うが…
(「絵美子のモノはすべて奪いたかった」という麻衣に対して)
「あなたは物だけでなく、人の命も奪ってしまった。この先あなたは、自分の犯した罪と一生つき合っていかなければなりません。いいですね」
と、右京に糾弾されていたが、たまたま小百合と鉢合わせしなければ、殺人の罪を犯すことはなかったように思う。最近の右京の糾弾は方向が違うような気がする。
正当防衛の証明は難しいが、直ちに救急車を呼べば、絵美子の狂言と言う事実もあり、正当防衛の主張に信憑性があるのでは?
③田中小百合(樋口泰子)
絵美子の資産運用のアドバイスをしていたのだが、絵美子のキャスター時代からの信奉者(狂信者)で、今回、インサイダー取引で得た金を絵美子に渡そうとして、麻衣と鉢合わせ。
麻衣がDV夫のところへ連れ戻しに来たと勘違いして、いきなりナイフを取り出し襲い掛かる。いきなりナイフか?ナイフを出すなら、構えて脅すだけでも良かったのに…
そもそも、インサイダー取引をする必要があったのだろうか?
④坂崎(宮川一朗太)
「(麻衣とのことがなければ)絵美子はナイフなんかで人を刺したりしなかったのに」
このセリフを聞いたとき、≪あぁ言っちゃったよ。お決まりの展開だな≫と思ったのだが、その真意が分からない。
今回の騒動が坂崎の計画なら、“墓穴を掘った”で良いのだが、どうやら坂崎は妻に復讐を兼ねて利用されただけ。
警察から釈放されて自宅に帰った時、麻衣と対峙したシーンがあったので、麻衣から事情を聴いたと思われるが、全てを聞いたのか、絵美子が刺したと嘘をつかれたのかが不明。全てを聞いて、麻衣を庇ったのかもしれないし、麻衣のついた嘘を信じたのかもしれない。
終わってみれば、脆弱で陳腐でありふれた事件の真相だった。
小百合というフェイク的キャラが、偶発的に殺害(脚本的には強引に殺害)されて、アクセントはついたが……
上記のように、共犯関係など色々フェイクストーリーの可能性があった。
事件関係者の心理や行動を掘り下げて描写し、フェイクストーリーを捜一コンビに追わせ、特命がホワイトボードを使って論理的に検証するなどしたら、面白い話になったような気がする……
第1話「ボディ」、第2話「ボディ ~二重の罠」、第3話「辞書の神様」、第4話「バクハン」、第5話「計算違いな男」、第6話「ブラックパールの女」、第7話「うさぎとかめ」、第8話「微笑みの研究」、第9話「刑事一人」、元日スペシャル 第10話「ディーバ」
第11話「密着特命係24時」、第12話「怖い家」、第13話「10億分の1」
【ストーリー】番組サイトより
失踪した元人気女性キャスターは夫に殺害された!?
“理想の夫婦”が隠す不都合な真実とは?
ある夜、亘(反町隆史)は学生時代から懇意にしている犯罪心理学のコメンテーター・坂崎(宮川一朗太)から連絡を受ける。突然、妻の絵美子(東風万智子)が姿を消してしまったという。亘が右京(水谷豊)と共に坂崎家を訪れると、現場には絵美子のものと見られる血痕と何者かが侵入した形跡が残されていた。坂崎から事情を聞くと、絵美子は元人気キャスターで、最近ストーカーにつきまとわれていたらしい。
ところが、その直後、ストーカーから送られてきたとされるメールが、坂崎のパソコンから発信されていたことや、坂崎が絵美子にDVをしていたことを示唆するSNSのやり取りが発見される。世間から「理想の夫婦」と評されていた2人だけに、亘もにわかには信じられないが、“坂崎の犯行”を裏づける証拠が次々に見つかり、元人気キャスターの失踪は一転、夫によるDV殺人の可能性が濃厚に。さらに、坂崎には世間を欺く“別の顔”があることも判明して…!?
冤罪を主張する容疑者を弁護するのは、
特命係と深い因縁がある元検事の女性
機密漏洩、過労自殺、そして官僚殺害…
絡み合った事件の謎を特命係が解き明かす!
ゲスト:宮川一朗太 東風万智子
脚本:根本ノンジ
監督:片山修
終わってみれば
Ⅰ.動機が幼稚
坂崎の原稿の謝辞の「いつも私を影で支えてくれた愛する妻・絵美子へ捧ぐ」が引き金となった。夫を立てる女性を演じていたが、実は脚光を浴びていたかった。しかも、結婚の際、「ずっと支える」と誓った夫に言われてしまっては怒り爆発。
「あなたを日の当たるところへ引き出してあげたのも、このあたしよね」
「なのに、“陰で支えてくれた”って何よ。なんであたしがあなたの影なのよ。
あたしは“おだえみ”なのよお!」
……… 右京が言ったように“くだらないちっぽけな虚栄心”だった。
Ⅱ.浅はかな計略
夫からドメスティックバイオレンスを受けていた悲劇のヒロインとして表舞台に立とうという目論見だった。
しかし、騒動が大きくなり過ぎて狂言がばれるリスクも高い。そもそも、目論見が浅はかだ。
夫を陰から支えて輝かせたという事実は高く評価されていたのだから、普通に現場復帰すれば、脚光を浴びる事が出来そうで、浅はかとしか言えない。
《床の血を拭いた跡》《蛇口の血の細工》《血の付いたゴルフクラブ(血の付いたままにしておくのは不自然)》《ストーカーのメールの発信元の細工》《SNSでの妹とのやり取りの偽装》など頑張ってはいたが、あれだけ血を流したのにDVを受けた傷痕はなく、どのような姿で記者会見を開くつもりだったのだろうか?(記者会見前に自傷するつもりだったのかもしれないが)
Ⅲ.理解しがたい事件関係者の心理とその描写の分かりにくさ
①絵美子(東風万智子)
ちっぽけな虚栄心については上記のⅠで述べた通り。
その心理描写の“肝”と言えるのが、坂崎の原稿の謝辞。その部分だけピックアップすれば巧みだとは思うが、映像では右京が一瞥(いちべつ)しただけなので、視聴時にはよく分からなかった。
②麻衣(佐藤みゆき)
≪小さいころから姉のことが死ぬほど嫌いだった≫と言うが、その描写は全くなし。ネタバレにならないようにするための都合だったとは思うが、麻衣のセリフだけでもいいから「こういうところが嫌い」とか「こういう嫌な思いをした」とかあっても良かった。
姉に≪自作自演を告白すべき≫と説得に行ったと言うが、どういう気持ちだったのかも分かりにくい。姉が嫌いなら、説得せずに「SNSで姉とやり取りした覚えはない」と警察に訴えればよいと思うが…
(「絵美子のモノはすべて奪いたかった」という麻衣に対して)
「あなたは物だけでなく、人の命も奪ってしまった。この先あなたは、自分の犯した罪と一生つき合っていかなければなりません。いいですね」
と、右京に糾弾されていたが、たまたま小百合と鉢合わせしなければ、殺人の罪を犯すことはなかったように思う。最近の右京の糾弾は方向が違うような気がする。
正当防衛の証明は難しいが、直ちに救急車を呼べば、絵美子の狂言と言う事実もあり、正当防衛の主張に信憑性があるのでは?
③田中小百合(樋口泰子)
絵美子の資産運用のアドバイスをしていたのだが、絵美子のキャスター時代からの信奉者(狂信者)で、今回、インサイダー取引で得た金を絵美子に渡そうとして、麻衣と鉢合わせ。
麻衣がDV夫のところへ連れ戻しに来たと勘違いして、いきなりナイフを取り出し襲い掛かる。いきなりナイフか?ナイフを出すなら、構えて脅すだけでも良かったのに…
そもそも、インサイダー取引をする必要があったのだろうか?
④坂崎(宮川一朗太)
「(麻衣とのことがなければ)絵美子はナイフなんかで人を刺したりしなかったのに」
このセリフを聞いたとき、≪あぁ言っちゃったよ。お決まりの展開だな≫と思ったのだが、その真意が分からない。
今回の騒動が坂崎の計画なら、“墓穴を掘った”で良いのだが、どうやら坂崎は妻に復讐を兼ねて利用されただけ。
警察から釈放されて自宅に帰った時、麻衣と対峙したシーンがあったので、麻衣から事情を聴いたと思われるが、全てを聞いたのか、絵美子が刺したと嘘をつかれたのかが不明。全てを聞いて、麻衣を庇ったのかもしれないし、麻衣のついた嘘を信じたのかもしれない。
終わってみれば、脆弱で陳腐でありふれた事件の真相だった。
小百合というフェイク的キャラが、偶発的に殺害(脚本的には強引に殺害)されて、アクセントはついたが……
上記のように、共犯関係など色々フェイクストーリーの可能性があった。
事件関係者の心理や行動を掘り下げて描写し、フェイクストーリーを捜一コンビに追わせ、特命がホワイトボードを使って論理的に検証するなどしたら、面白い話になったような気がする……
第1話「ボディ」、第2話「ボディ ~二重の罠」、第3話「辞書の神様」、第4話「バクハン」、第5話「計算違いな男」、第6話「ブラックパールの女」、第7話「うさぎとかめ」、第8話「微笑みの研究」、第9話「刑事一人」、元日スペシャル 第10話「ディーバ」
第11話「密着特命係24時」、第12話「怖い家」、第13話「10億分の1」
【ストーリー】番組サイトより
失踪した元人気女性キャスターは夫に殺害された!?
“理想の夫婦”が隠す不都合な真実とは?
ある夜、亘(反町隆史)は学生時代から懇意にしている犯罪心理学のコメンテーター・坂崎(宮川一朗太)から連絡を受ける。突然、妻の絵美子(東風万智子)が姿を消してしまったという。亘が右京(水谷豊)と共に坂崎家を訪れると、現場には絵美子のものと見られる血痕と何者かが侵入した形跡が残されていた。坂崎から事情を聞くと、絵美子は元人気キャスターで、最近ストーカーにつきまとわれていたらしい。
ところが、その直後、ストーカーから送られてきたとされるメールが、坂崎のパソコンから発信されていたことや、坂崎が絵美子にDVをしていたことを示唆するSNSのやり取りが発見される。世間から「理想の夫婦」と評されていた2人だけに、亘もにわかには信じられないが、“坂崎の犯行”を裏づける証拠が次々に見つかり、元人気キャスターの失踪は一転、夫によるDV殺人の可能性が濃厚に。さらに、坂崎には世間を欺く“別の顔”があることも判明して…!?
冤罪を主張する容疑者を弁護するのは、
特命係と深い因縁がある元検事の女性
機密漏洩、過労自殺、そして官僚殺害…
絡み合った事件の謎を特命係が解き明かす!
ゲスト:宮川一朗太 東風万智子
脚本:根本ノンジ
監督:片山修
誤字の指摘、ありがとうございました。
特に、「おだゆみなのよぉ!」と大フォントサイズ、赤字、太字で書いてしまい、恥ずかしいです。
早速訂正しました。
>血痕は残っているけど死体がないというケースは、実際は生きているというのが今までのパターンでしたので、絵美子が生きているのは序盤から予想できてしまいました
ええ、確かにそうなのですが、共犯関係が幾通りもあったので、本文にも書きましたが、もう少しうまく展開させれば、もっと面白くなったと思いました。
>すぐに名乗り出るつもりだったのなら、インサイダー取引で大金を用意する必要はないはず。
本文にも書きましたが、同感です。
まあ、フェイクの容疑者やフェイクのストーリーの為の存在だったと思われますが、それでも、大金の必要性がなかったので、脚本としては不満です。
>麻衣が小百合の死体を移動させた理由が分かりませんでした。
さっさと逃げた方が良いですね。それに、隠すのなら、もっとしっかり隠さないと。
本文では書きませんでしたが、世間を騒がして潜伏している状況で、しかも、支援者の小百合が大金を持ってくるのに、うたた寝とは、絵美子は図太いですね。
正直言って消化不良です。血痕は残っているけど死体がないというケースは、実際は生きているというのが今までのパターンでしたので、絵美子が生きているのは序盤から予想できてしまいました(過去には、『TAXI』(S6-4)や『ママ友』(S14-6))で同様の例あり)。
脚本にも、疑問に感じる点がありました。
○本当に撲殺したのなら、ゴルフクラブには血液だけでなく皮膚片や毛髪も付着していなければおかしいので、捜査一課がすぐに偽装に気づいてもよさそうなものです。そもそも、凶器はすぐ処分するのが普通では?
○すぐに名乗り出るつもりだったのなら、インサイダー取引で大金を用意する必要はないはず。
○麻衣が小百合の死体を移動させた理由が分から分かりませんでした。
ちなみにⅠの本文について「現行」は「原稿」ではないでしょうか。あと“おだゆみ”ではなく“おだえみ”ですよね。
ストーリーとは関係ありませんが、ゲストの宮川一朗太さん、現在52歳ですが、昭和のころからほとんど印象が変わらない気がします。