かたみこそ いまはあたなれ これなくは わするるときも あらましものを
形見こそ 今はあたなれ これなくは 忘るる時も あらましものを
よみ人知らず
形見の品こそが今は恨めしいものになってしまった。これさえなければ、あの人のことを忘れられる時もあるだろうに。
第二句の「あた」が「あだ(徒)」なのか「あた(仇・敵)」なのかでニュアンスが変わります(当時は濁点の表記がありませんので、どちらともとれます)が、歌全体の含意から「あた」と解釈されています。離れて行った人の残した思い出の品が、今となっては「むだなもの」に留まらず「恨めしいもの・仇(かたき)のようなもの」となってしまったというわけですね。
この、なかなかに激しい歌が巻第十四「恋歌四」の掉尾。明日からいよいよ恋歌の最終巻、巻第十五「恋歌五」のご紹介に入ります。