ことならば ことのはさへも きえななむ みればなみだの たきまさりけり
ことならば 言の葉さへも 消えななむ 見れば涙の 滝まさりけり
紀友則
同じ消えてしまうならば、命だけでなく言葉も消えてほしいと思います。父の残した歌を見ると、涙が滝となって流れてしまうので。
詞書には「惟喬親王の、父はべりけむ時によめりけむ歌ども、と請ひければ、書きて送りける奥によみて書けりける」とあります。「父」は友則の父を指し、惟喬親王の求めに応じて、父が生前詠んだ歌を書いて送る際に、末尾に書いた歌ということです。第三句の「なむ」は他者への願望を表す終助詞ですね。