きみがうゑし ひとむらすすき むしのねの しげきのべとも なりにけるかな
君が植ゑし 一むらすすき 虫の音の しげき野辺とも なりにけるかな
御春有助
あなたが植えたひとかたまりの薄は、今では虫の音がしきりに聞こえる生い茂った野辺になったことですよ。
長い詞書には「藤原利基朝臣の右近中将にてすみはべりける曹司の、身まかりてのち、人もすまずになりにけるに、秋の夜もふけて、ものよりまうできけるついでに見入りければ、もとありし前栽も、いとしげく荒れたりけるを見て、早くそこにはべりければ、昔を思ひやりてよみける」とあります。藤原利基(ふじわら の としもと)は藤原兼輔の父。兼輔は古今集に四首(0391、0417、0749、1014)、勅撰集全体では50首以上が入集している名歌人ですね。「曹司」は与えられた部屋、「早くそこにはべりけれ」は以前にそこに仕えていたの意。第四句の「しげき」は、虫の音と野の両方に掛かっています。
作者御春有助(みはる の ありすけ)の歌は 0629 以来の登場。古今集への入集はこの二首となります。