あまのかる もにすむむしの われからと ねをこそなかめ よをばうらみじ
海人の刈る 藻にすむ虫の われからと 音をこそなかめ 世をばうらみじ
藤原直子
海人が刈る藻に住む虫の「われから」ではありませんが、私もこの恋の辛さを私自身の招いたこと思って、声をあげて泣きはしても、あの人との仲を恨みはしますまい。
「われから」は、小さな節足動物の名ですが、もちろん「我から」が掛かっています。「刈る」も「離る」を連想させる言葉と言えましょうか。伊勢物語第65段にも載る歌ですが、そちらはこの歌を元に創作された段とのことです。
作者の藤原直子(ふじわら の なおいこ)は、典侍(「ないしのすけ」。宮中に伺候する女官)に任ぜられた人物で、古今集の作者名には「典侍藤原直子朝臣」とあります。ただ、詳細はよくわかっていません。古今集への入集はこの一首のみです。