あひみぬも うきもわがみの からごろも おもひしらずも とくるひもかな
あひ見ぬも うきもわが身の 唐衣 思ひ知らずも とくる紐かな
因幡
あの人に逢えないのも、そのためにつらい気持ちでいることも、すべてわが身の招いたことなのに、そんな私の思いも知らずにほどけてくる下紐であるよ。
唐衣の紐がほどけるのは、愛しい人に逢える前兆。古今和歌集の歌にもすでに何度か出てきていますね。そして「からごろも」の「から」には、原因や理由を表す助詞の「~から」が掛かっています。自分のせいで逢瀬が叶わなくなっているのに現れる、実現するはずもない前兆を恨めしく見据える作者。むなしく切ない恋情ですね。
作者の因幡(いなば)は、因幡権守(いなばのごんのかみ)となった基世王の娘とされる人物ですが、詳しいことはわかっていません。古今集への入集はこの一首のみです。