おもひせく こころのうちの たきなれや おつとはみれど おとのきこえぬ
思ひせく 心のうちの 滝なれや 落つとは見れど 音の聞こえぬ
三条町
ここに描かれているのは、思いを堰き止めている心の中の滝なのでしょうか。落ちていると見えていますが、音は聞こえないのです。
少し長い詞書には「田村の御時に、女房のさぶらひにて、御屏風の絵御覧じけるに、滝落ちたりける所おもしろし、これを題にて歌よめと、さぶらふ人におひせられければよめる」とあります。「田村の御時」とは、第55代文徳天皇の御代の意。作者の三条町(さんじょう の まち)は、文徳天皇の更衣だった紀静子(き の しずこ)のことで、邸宅が三条にあったことからこう呼ばれたようです。古今首への入集はこの一首のみですね。屏風絵の滝は、水が落ちているのはわかるけれども音は聞こえない、そのことに準えて、天皇に対して口には出さないけれども深い恋心を抱いていることを表現しています。