さきそめし ときよりのちは うちはへて よははるなれや いろのつねなる
咲きそめし 時よりのちは うちはへて 世は春なれや 色の常なる
紀貫之
咲き始めたときから後はずっと世の中は春であるのか、花の色はずっと変わらない。
詞書には「屏風の絵なる花をよめる」とあります。「うちはへ」は漢字で書けば「打ち延へ」で、ずっと長くの意。貫之は多くの屏風歌を残した歌人で、貫之集全九巻中四巻が屏風歌となっているほどですが、屏風の絵を題材としていても、この歌のように純粋に絵を絵として詠んでいて、絵を媒介として世界を出現させる視点のないものは屏風歌として扱われないようです。実際、貫之集においてもこの歌は雑歌の巻に配置されていますね。