かぜふけど ところもさらぬ しらくもは よをへておつる みずにぞありける
風吹けど 所も去らぬ 白雲は 世を経て落つる 水にぞありける
凡河内躬恒
風が吹いてもその場所から離れない白雲は、長い間ずっと落ち続けている水なのであった。
詞書に「同じ滝をよめる」とあり、0928 と同じく比叡山の音羽の滝を詠んだ歌です。0928 では滝が白髪に喩えられていましたが、こちらは白雲。どちらも珍しい見立てで、手元の解説本には「同じ時の歌と見れば、互いにめずしい詠みぶりを競ったか」との推測が記されています。作者自身が競ったかは別としても、古今集の撰者が珍しい見立ての歌ということで並べて配置したことは間違いないでしょう。個々の歌そのものはもちろんですが、複数の歌の配列の意図をうかがい知ることができ、また、鑑賞しながらそうした点に思いをめぐらすことができるのも、古今集鑑賞の楽しみの一つですね。