漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 498

2024-08-26 06:48:25 | 貫之集

はるかにも こゑのするかな ほととぎす このくれたかく なけばなりけり

はるかにも 声のするかな 時鳥 木のくれ高く 鳴けばなりけり

 

はるかに時鳥の声が聞こえる。鬱蒼と茂った木の高いところで鳴いているから。

 

 第四句「木のくれ」は「木の暗れ」で、木が茂って暗いところの意。


貫之集 497

2024-08-25 06:17:39 | 貫之集

はなとりも みなゆきかひて むばたまの よのまにけふの なつはきにけり

花鳥も みな行きかひて むば玉の 夜のまに今日の 夏はきにけり

 

花も鳥もみな入れ替わって、夜の間に今日、夏がやって来たことよ。

 

 「むば玉の」は「夜」に掛かる枕詞。「今日」は立夏の日なのでしょう。一夜にして、目にする花も鳥も夏のそれに入れ替わったように思えるという詠歌ですね。


貫之集 496

2024-08-24 05:55:09 | 貫之集

ふぢなみの かげしうつれは わがやどの いけのそこにも はなぞさきける

藤波の 影しうつれば わが宿の 池の底にも 花ぞ咲きける

 

藤の花房が映って、わが家の池の底にも花がさいているよ。

 

 貫之得意のリフレクションの描写。「水に映る情景」と「見立て」は、貫之歌の中心的なモチーフのように思います。


貫之集 495

2024-08-23 05:25:15 | 貫之集

さくらばな ふりにふるとも みるひとの ころもぬるべき ゆきならなくに

桜花 降りに降るとも 見る人の 衣ぬるべき 雪ならなくに

 

桜の花びらが降りしきっている。見る人の衣を濡らす雪であるかのように。

 

 散る桜を雪に見立てる(あるいはその逆)着想の歌は、302485 にも出てきましたね。

 

ちりがたの はなみるときは ふゆならぬ わがころもでに ゆきぞふりける

散りがたの 花見るときは 冬ならぬ わが衣手に 雪ぞ降りける

(302)

 

ゆきふれば くさきになべて をるひとの ころもでさむき はなぞさきける

雪ふれば 草木になべて 折る人の 衣手寒き 花ぞ咲きける

(485)


貫之集 494

2024-08-22 04:36:59 | 貫之集

ちはやぶる かみのたよりに ゆふだすき かけてやひとも われをこふらむ

ちはやぶる 神のたよりに ゆふだすき かけてや人も われを恋ふらむ

 

神を祭るおりに木綿襷をかけるように、人も私をここにかけて恋してくれるであろうか。

 

 「ちはやぶる」は「神」にかかる枕詞。第四句「かけて」は、木綿襷を「掛ける」と人が自分を心に「かける」の両義で、021393 など、しばしば登場する手法です。
 この歌は、続古今和歌集(巻第十四「恋四」 第1231番)に入集しています。そちらでは第二句が「神のたむけの」とされていますね。