最新巻ではないけれど、時系列的には一番後である、「弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇4」。
「しあわせ宅配篇」はこれで一段落のようなので、どんな終わり方になるのか、ドキドキしながら読み進めました。
これまでの巻と同様に4つのエピソードが書かれているけれど、軸となっているのは、最後には「くま弁」のバイトを辞めて新たな道へと進む主人公・雪緒と、彼女と互いに思いを寄せ合いながらも、様々な葛藤からなかなか前進できずにいる男性・粕井との物語。
最初のエピソードから3つ目のエピソードまでは、いつもながらゲストが登場しての人間模様が描かれているけれど、軸の部分にぶれがないから、物語が雪緒の目線でしっかりと書かれているのがよく理解できるので、読み手の方も、自分が雪緒の目線に立ったような感じで読み進めることができるというところに、改めて、作者である喜多みどりさんの文章力、表現力の素晴らしさを感じました。
最初は、半世紀前の大阪万博で話題になった「タイムカプセル」の話と、「くま弁」の50年に亘る歴史とを上手く絡めたストーリー。
亡き伯母が埋めたタイムカプセルを探すゲストの女性が、埋めた場所が現在の「くま弁」の場所であると主張するも、若い頃からの「くま弁」の常連である建築士がそれを否定し、結果は女性の誤解であったことが判明するが、そこから「くま弁」のオーナーである熊野鶴吉の少年時代からのエピソードに波及し、ついには札幌を離れて函館が舞台になるという壮大な展開に、元函館市民としては、これはぜひ函館でロケをやって映像化してほしいと思いました。
二つ目のエピソードでは「小笠原小夜子」という女性ゲストが登場するけれど、第4巻と第6巻で、「くま弁」の店主ユウの妻千春の職場の後輩である「宇佐小夜子」という女性が登場しているので、一瞬、宇佐が結婚して、姓が変わって登場したのかと思ってしまいました。
第6巻で、ユウと結婚して「くま弁」を切り盛りするために退職した後も、宇佐とは友達として会い続けたいという趣旨の千春のセリフがあったので、別人だということが分かりながらも、宇佐の方の近況も気になるなあと思いながら読んでいましたが、その辺はどうなのでしょうかね。
このエピソードでは、初期の頃から登場し、すっかりセミレギュラーとなっている青年ショウヘイがまたまた登場し、進むべき道について思い悩む雪緒の背中を押すような台詞を残しているというのが、初期の頃から変わらずに続いている物語世界を象徴しているようで、見事だなと思いました。
三つ目のエピソードは、同姓同士でしかもお隣同士でお付き合いしているものの、親同士の不仲により先に進むことができないでいる若い男女の物語だけど、最後は、親同士のことに関係なく先へ進みたいという二人の決意を間近で見た雪緒が、粕井の関係を自分なりに前進させてみようと考える場面で終わっていて、それがそのまま最後のエピソードに繋がっていくという流れ。
最後のエピソードでは、新たな道を見つけて「くま弁」を退職する雪緒の心情に絡めて、ユウと千春の間に待望の第一子が誕生するという展開も描かれていて大変読みごたえがあったけれど、ゲストキャラが登場しない、レギュラーとセミレギュラーだけのエピソードだったこともあり、何となく、これがこの物語の最終回になってしまうのではと思ってしまったけれど、ラストシーンでは、「数年前まで『くま弁』で働いていた雪緒」が、粕井と共に「くま弁」を訪れるシーンで、その中で、ユウと千春の子供が順調に育っていることや、雪緒と粕井の関係が順調であること、更には、雪緒の弟と結婚したという、セミレギュラーの女性若菜の近況も語られていたので、きっとこの物語はこれからも続いていくだろうという期待と確信を得ました。
ということで、この場をお借りして喜多みどりさんへのお願い。
ぜひ、今後もこの物語を続けて行ってください。次の巻を楽しみにしています。
全11巻、とても楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。