60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

昭和の営業と平成の営業

2014年07月25日 08時21分35秒 | Weblog

  親会社に来る営業で、毎週火曜日AM10:00頃に来社する人がいる。事前にアポイントを取って来るわけでもなく、オーナーが居れば会って話をし、不在の時は出された珈琲を飲んで帰っていく。彼はあるフィルムメーカーを定年退職後、地方のフィルム加工会社の東京の営業責任者として再就職した。親会社のオーナーとは何十年来の付き合いである。今は彼の会社との取引もあるが、毎週来て商談するほどの取引ではない。彼らが話す内容は業界の状況や市況、自社の状況、他社の噂話、あとはもっぱら世間話とオーナーの自慢話を聞いてあげることである。昔はこういう営業スタイルも当たり前にあった。「営業とは会ってなんぼ・・・」そんなことから、特に用事もないのに、「近くまで来たので、寄ってみました」と言い、出向いてくるのがよく使われる営業手法であった。しかし今はアポイントなしでの訪問は、反対に迷惑な行為になってきたようである。虚礼廃止で年末年始の挨拶回りも少なくなるなど、昭和と平成でその営業スタイルも変化してきている。そして商談相手との人間関係のあり方も違っている。

 10年前、ある地方の水産練り製品メーカーの東京の責任者(副社長)と話した時の話である。そのメーカーは某大手量販店に商品を入れていた。しかし量販店側の政策もあってか、商品が徐々にカットされ、ほとんど無くなってしまった。その後は若手の営業マン(30代)が担当して細々と継続していた。彼はそれでも足しげく通って、ある時期に新製品が何品か採用される可能性ができた。その報告を受けた責任者は、「ここ一番、俺の出番だろう!」と思い、若手の営業に同行する。彼は典型的な昭和の営業マンである。商談は業界情報や他社の噂話や悪口、そしてゴルフや麻雀、飲食の接待で相手に取り入るのが得意技である。当然今回の商談の折りにも、「今度一度ゴルフに行きませんか?」、「新宿に私の地元料理を食べさせる店があるんです、一度行って見ませんか?」などと誘ったそうである。その時、相手のバイヤー(30代)は胡散臭いものでも見るような目でこちらを見ていたと言う。後日若い営業マンの報告で、商談は不成立で新規の商品導入はならなかったそうである。「自分が原因かどうかは分からない。しかしあそこは最後まで彼に任すべきだった。心底彼には悪いことをしたと思っている」、という話を私にしてくれた。

  そんな話からその責任者と「昭和と平成の営業スタイルの違い」という話になった。その時2人で話し合った内容は以下のようなものである。

 昭和の時代は右肩上がり、大手量販店も出店ラッシュで、メーカーも量販店にくっ付いていれば連れて売り上げも伸びていく。したがって営業の重要なポイントは買い手側に取り入って、取引を維持していくことにあった。だから営業マンは買い手に対して頭を低くし、おべっかを使い、相手のプライベートまで立ち入り、盆暮れの贈答を欠かさず、飲食やゴルフの接待も頻繁であった。そのため営業マンには多くの接待交際費が認められていて、それをたっぷり使っても、それに勝る売り上げを上げる営業マンが優秀な営業と言われていたのである。

 しかし平成の時代は様相が変わってくる。買い手もコンビニや通販やインターネット販売と多岐に渡り、量販店の売り上げも徐々に落ちていく。従って限られた販売先に依存しているとリスクも高くなり、年々条件交渉もきつく儲からなくなってくる。しかも得意先からは品質管理や商品開発力、システム化や企業の透明性、臨機応変な対応力などが求められてくる。そんな中で営業に求めたれるものも以前とは違ったものになってきた。条件改定、スピード、商品知識やトラブル時の対応力などである。へたな会社や鈍い営業マン相手では、自分自身の社内評価も上がらない。だから必然的に情実の入り込む余地も少なくなってくるのである。


 時代背景が変わっても、そこは商売である。売り手と買い手の人間関係も、質は変わっても重要なファクターであることに変りはない。今の若い人達は昭和の人間関係のように濃密な関係を嫌う。仕事は仕事、プライベートはプライベートとして分けて考えたい。従って仕事ベッタリな会社人間はどちらかといえば鬱陶しい。仕事があり家庭があり、尚且つ自分の世界(趣味)を持っている、そんな人が理想である。

 例えばシュノーケリングで各地の海を潜って楽しんでいる。例えば山登りが趣味で、休みになればあちらこちらの山に登っている。例えば神社仏閣に興味を持ち、時間が許せば訪ねてその歴史について勉強する。例えば天文学にやたら詳しく、自分でも望遠鏡をもって天体観察をしているなど、今流行の○○ガールではないが、その世界を語らせれば2時間でも3時間でも楽しく語れるほどの趣味を持ってる人である。人はそんな人に魅力を感じ、そんな相手には一目置くのである。商談相手がそんな世界を持っている人であれば、その世界が違っていても互いに尊重しあい認め合うようになる。その時は得意先と仕入先の関係ではなく、一対一の対等な人間関係が成立することになる。

 昭和の営業と平成の営業、その境界線はバブルの崩壊を境に変わっていったように思う。得意先の仕入れ担当者が30代の若い人であれば、昭和の営業手法では通用しないことを実感するはずである。それはどんなに媚びへつらっても、相手にとっては胡散臭く、反対に距離をおきたくなる存在になるからである。だからといってスタイルを変えようとしても、長年培ってきた自分を変えるのも難しい。それは仕事一途で、自分の世界(趣味)を持ってこなかったからである。








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