monologue
夜明けに向けて
 



わたしたちのクラスにアルゼンチンから来たオルガ(OLGA GOMEZ)というかわいい白人系女生徒が入ってきた。アルゼンチンで撮ったフイルムを学校で映してみんなにアルゼンチンの紹介をしたりしてものおじしない外交的な性格だった。わたしがギターを弾くと知ると「タッチ・ミー・イン・ザ・モーニング」や「ユー・ライト・アップ・マイ・ライフ」「ウイ・アー・オール・アローン」などのバックを弾いてくれと頼んで歌った。声も良くてうまかった。歌手になりたいようだった。わたしの作った歌も歌いたがったので京都で女性フォークデュオが歌って人気があった「打ち上げ花火」の1番と2番をローマ字で書いて教えるとすぐにエキゾチックな香りのする発音の日本語で歌えるようになった。わたしはスリーフィンガーピッキングでバックを弾きながらコーラスした。クラスメイトには大好評で日本でデビューさせるといいと盛り上がった。そのうちわたしはNBCの人気番組「ゴング・ショー」のオーディションに受かりテレビに出演した。それでオルガも「ゴングショー」のオーディションを受けた。「ウイ・アー・オール・アローン」を歌ったが残念ながら落ちてしまった。そのころ「ゴングショー」は新人歌手の登竜門になっていて番組から出てきてヒットする新人がよくいたのでオルガもそれを期待していたのだがだめだった。歌のうまさだけだったらオルガは通っていても不思議はなかったけれど他の要素で落とされたようだった。しばらく後、わたしはクラブのエンターティナーの仕事をして生活が落ち着いてきたので「打ち上げ花火」の評判の良かったオルガに電話して妻と住居を訪ねると中国系アメリカ人と結婚して米国永住権を取得していた。「打ち上げ花火」のギターを弾いて歌を促したがもうまともに歌えなくなっていた。永住権を取得したことに満足して歌手をあきらめてしまったようだった。米国永住権を取って米国で仕事して一生を過ごすこと。それがオルガの望む幸せだったのだろうか。今でも日本受けするエキゾチック日本語発音の歌とあのかわいさで日本デビューしていれば京都の歌を歌うアルゼンチン娘としてかなり売れたのにとふと思う。青春の一時期を与えられた芸能の才能を発揮して過ごしていれば面白い人生だっただろうに、と勝手な感想を抱く。
fumio

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