ポツポツ浮かんだ白い雲が見える。
そこを抜ければゴールは直ぐそこ。
足にあるのは今にも攣りそうな感覚だけ。
長くもあり短くもあった今日のレースがこれで終る。
そんな久しぶりの感覚が
懐かしいような名残惜しいような。
「さのマラソン」
あのゆるきゃらグランプリ日本一位に輝いたさのまるくんのふるさと、
栃木県佐野市で行われる大会。
いたる所に佐野ラーメンのお店が立ち並び、
テレビでも紹介された有名店や
行列のできるお店など、
手打ちの麺とあっさり系の
スープとで美しいラーメン、
そんな印象のあるラーメンの街である。
今回でこのレースは4度目の参加。
この佐野市は自分にとってパワースポット。
いつもこの大会でたくさんの力を頂き笑顔で帰路に付ける大会でもあった。
しかし毎年コースは変わり基本的には山側に走り出し前半は上り、後半を下るといった
コース状況は変わらない模様。
昨年からコースを一新し、かなりきつ目の設定となったらしいのだが、
昨年はぼやぼやしているうちに申し込みが締め切られ残念ながら走る事ができなかった。
今年も申し込んではあったが諸事情により出走は殆ど諦めていた。
しかし心も身体も万全とは言わずともその距離には何とか耐えられそうなくらいまでに復調。
一番の懸案だった膝には殆ど痛みはなくなり、アキレス腱にいたっては最初にさえ
無理しなければ痛む事がなくなった。
ただ、相変わらず腰には違和感たっぷり。
そこから発せられる数々の不具合がどの程度フルという距離に対して生じるのかは
走って見なければ分からない状況に変わりはない。
同じ姿勢をとることによる
ダメージを考えると本来ならば
このレース自体をあきらめた方が
無難であることは重々承知ではあるのだが
どうしても今年最後の大会と言う思いが強く、
後先考えずに今回の出走となった。
この日は天気予報によれば寒気の影響で最高気温12℃、晴天と言う事なのだが
この地方にとって”寒気の影響”といえば風が吹くのが当たり前。
山沿いを走るこのコースに加えて風となれば気温以上に体感気温は下がるはず。
よって半袖のTシャツにアームウオーマー、そして最近の自分では珍しく
ロングタイツと言う出で立ちで臨む。
参加人数約2千人程度のレースである為、殆どストレスなくスタート。
今日までまったくと言っていいほどフルに対応した練習はしておらず、
今日はあくまでも自分を試す為のレースとの位置付け。
決して無理はせず、あの太田スバルマラソンで経験した恐怖の膝の脱力に直面したら
潔くその場で取りやめ、そのことだけを肝に命じての走り出し。
最初の1キロがちょうど6分、このペース、このペースだ。
好感触のスタートが切れた。
その後、スピードアップをしたような意識がないまま5kmのラップをとれば27分の前半。
キロ5分30秒は切っているが決してオーバーペーストとは感じず自然の流れ。
練習では5分15秒前後で走るのが一番無理なく安定していると感じていたのだが
上り基調のここまでを考えると練習通りだったのかもしれない。
しかしここからがやや早かった。
上り基調は変わらずそれでも25分、26分で15kmまで。
アップダウンの厳しいセクション。
コース図(高低図)をみればまるで鬼の角のよう。
急激に上る最初の坂はいたって順調。
それ程苦にも感じず上りきったその直後、
平坦な場所に出てから異変が一気に襲ってきた。
まるで走れない。
足が棒になったようだとはこの事を言うのか。
風は心地良く身体を冷やしてくれるが、
この場面ではすごく邪魔に感じた。
その後やや下りとなっても以前足の動きに生気はなく、
予想をしていた通り、ここにきて練習不足が災いしての失速。
20kmまでを26分台でカバーしていたのだが27分台後半へと一気に落ちて行った。
その後も下り基調と言うのに27分台を刻む。
そしてとうとう35km過ぎの坂を下りたとたん足が攣りかけた。
ガクンとスピードを落とし回復を待つ。
それでも膝だけには痛みがでる事はなくその部分ではすごく救われている。
残り5km、3km、1kmとゆっくり歩みを進めるが、
何時攣ってしまってもおかしくないような状況が続く。
ラップは28分台。
力を振り絞って最後の坂を下り競技場を目の前に捉えた。
緑色のアーチが見える。
皆ゴールへと向かうこのロードをどんな気持で走り抜けるのだろうかと
短い距離の間で考えた。
「坂にやられ撃沈(怒)」
「失敗した、負けた(哀)」
「ともかく走りきれた(楽)」
どんな思いにしてもここを
通り過ぎたランナーは全てが勝者だ。
コースに打ち勝ち、
関門に打ち勝ち、
自分に打ち勝った。
もちろんそれは自分も同じ。
私は走った、走りきれた。
嬉しかった、無条件に楽しかった。
心のそこからそう思えた。
ランニングハイとはまた違った喜びが心の中に溢れる。
3時間49分23秒の旅の終わりだ。
時間的にいえば遅いのは致し方ない。
しかし練習という位置付けのレースでと考えれば上出来の部類。
しかもこのコースで、この身体で・・・・。
の距離はそう簡単に走りきれるものではない。
だからこそ走りたい。
その挑戦はこれからも続くだろう。
何故って、それは私はランナーだから。
ランナーでありたいから。
そして今回は走りきった喜びよりも
走ろうと思えたことが何より嬉しかった。
それはランナーでいられたという裏づけでもあるのだ。