一生懸命やることが何故か滑稽になってしまう心子ですが、こんな小話もありました。
中学の学芸会、心子は村娘でワンシーンだけの端役でした。
ダムに沈む村に向かって「おっとう、おっかあ……!」と叫ぶのです。
心子はやり始めたら何でも徹底的にやります。
夜も家でセリフの練習を積み、町中の店を探し回ってモンペを見つけてきました。
学芸会の当日は、校庭の土を顔に塗って、どこから見ても田舎娘という出で立ちを作り上げました。
他の生徒はジャージ姿でお茶を濁しています。
本番、心子が舞台に飛び出してきました。
観客は仰天しました。
「本物が来た!?」
チビの心子が履いているのは大人用のモンペ、下半身ばかりデカくてまん丸に膨れ上がっています。
会場は爆笑の渦に包まれました。
でも自分の世界に入り込んでいる心子はちっとも気が付きません。
「おっとう、おっかあ……!」
迫真の演技で涙にむせんで呼ばわり、グスッと鼻をすすり上げます。
観客は床を踏み鳴らし、椅子をひっくり返さんばかりに笑い転げました。
そして劇が終わり、心子はカーテンコールで両手を一杯に広げて挨拶をしました。
一度やってみたかったというのです。
大受けの拍手喝采でした。
そのあとで、心子は友達から会場の反応を聞き、顔から火が噴き出しました。
そのことがあってから、心子は何かにつけてこの件で友達にからかわれ、ネタにされたといいます。
以来、学芸会のでき事は心子の“トラウマ”になり、今まで誰にも言えなかったそうです。
でもやっと僕に話すことができました。
“トラウマ”が癒えたのでしょう。
よかったよかった。 (^^)