「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

不安で歩き回る I さん

2010年01月05日 20時49分36秒 | 介護帳
 
 新しく入ってきた 認知症の I さんは、 施設に慣れないため、

 ここがどこなのか、 自分がどうしたらよいのか 分かりません。

 一日中 不安で、 「分かりません…… 分かりません……」と

 ぶつぶつ言いながら、 フロアを歩き回ったり、 外に出ようとしたりしていました。

〔*注: 「徘徊」 という言葉は、 「目的もなく歩き回ること」 を 意味します。

 しかし お年寄りは、 必ず何か 目的や意味を持って 歩いているのです。

 従って  「徘徊」 という言い方は、

 最近しないようになっている ということです。〕

 僕は I さんの気持ちを理解して 寄り添いたいと思い、

 また 歩き回って危険はないか とも考え、 I さんにずっと付いていました。

 I さんが不安で、 あちこち見て回っているのだろう ということは分かるのですが、

 どういう言葉をかけていいのか 考えていました。

 そして その気持ちをそのまま 言葉にしてみました。

「 初めての所で分からないから 不安なんですよね 」

 共感を示すと I さんは頷いて、 分かってもらえたという 様子を見せました。

「 心配ですよね。 でも そのうち慣れますから 」

 などと 声かけをすると、 I さんは 「分かりません」 ではなく、

「 分かりました 」

 と 言ってくださいました。

 ところが スタッフの人からは、

 I さんにずっと付いているのが 良いとは限らないと言われました。

 I さんは 一人でいたいかも知れない,

 ずっと付いていられるのは いい気持ちではないかも知れない,

 I さんにとって 良い距離を探すのが 大切だと。

 そういうこともあるのかと、 目から鱗の気がしました。

 ただ、 そばに寄り添っていた気持ちは、

 I さんに伝わっていただろうと 言ってもらえました。
 
コメント
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