新しく入ってきた 認知症の I さんは、 施設に慣れないため、
ここがどこなのか、 自分がどうしたらよいのか 分かりません。
一日中 不安で、 「分かりません…… 分かりません……」と
ぶつぶつ言いながら、 フロアを歩き回ったり、 外に出ようとしたりしていました。
〔*注: 「徘徊」 という言葉は、 「目的もなく歩き回ること」 を 意味します。
しかし お年寄りは、 必ず何か 目的や意味を持って 歩いているのです。
従って 「徘徊」 という言い方は、
最近しないようになっている ということです。〕
僕は I さんの気持ちを理解して 寄り添いたいと思い、
また 歩き回って危険はないか とも考え、 I さんにずっと付いていました。
I さんが不安で、 あちこち見て回っているのだろう ということは分かるのですが、
どういう言葉をかけていいのか 考えていました。
そして その気持ちをそのまま 言葉にしてみました。
「 初めての所で分からないから 不安なんですよね 」
共感を示すと I さんは頷いて、 分かってもらえたという 様子を見せました。
「 心配ですよね。 でも そのうち慣れますから 」
などと 声かけをすると、 I さんは 「分かりません」 ではなく、
「 分かりました 」
と 言ってくださいました。
ところが スタッフの人からは、
I さんにずっと付いているのが 良いとは限らないと言われました。
I さんは 一人でいたいかも知れない,
ずっと付いていられるのは いい気持ちではないかも知れない,
I さんにとって 良い距離を探すのが 大切だと。
そういうこともあるのかと、 目から鱗の気がしました。
ただ、 そばに寄り添っていた気持ちは、
I さんに伝わっていただろうと 言ってもらえました。