(前の記事からの続き)
○ 街景
○ 東央大病院・ 外景(夜)
○ 同・ 淳一の病室
ベッドに座り込んでいる淳一。
多佳子、 淳一に抱きついて 泣いている。
美和子、 がっくりとして立っている。
多佳子 「(涙) …… 手術が中止なんて …… !
ジュンくんが、 やっとここまで決心したの
に …… !」
美和子 「 …… ごめんなさい …… 」
多佳子 「先生って、 人の心 もてあそぶみたい
なことばっかり …… ジュンくん、 かわいそ
う …… 」
ベッドの中で淳一、 体を震わせている。
泣き声とも笑い声とも聞こえる 声を立て
ている。
美和子 「ジュン …… !! (涙)」
淳一を抱こうとする美和子。
多佳子 「さわらないで …… !! 先生なんか
ジュンくんに …… ! (美和子の手を払いのけ
る)」
美和子 「 !! …… 」
淳一を抱いて 泣く多佳子。
美和子、 なすすべもなく立ち尽くす。
○ 同・ ICU
人工呼吸器に繋がれた安達。
杏子が寄り添っている。
安らかな寝顔の安達。
杏子 「 ……… 」
○ 同・ カンファレンスルーム
美和子、 緒方、 川添。
美和子 「(落胆して) …… これで、 よかった
んでしょうか …… ? 安達さんを助けるこ
とができて …… 」
川添 「僕は、 安達さんを 何とか助けようと思
って、 様々な治療をしてきました …… 」
緒方 「うん …… 」
川添 「でも …… 体中に チューブを差された
スパゲティ状態で、 機械に繋がれた 安達さん
を見ていて、 僕は不思議な疑問に かられて
きた …… 」
美和子 「? …… 」
川添 「この人は、 一体いつ、 “死ぬことを許
されるのだろうか ?” って …… 」
美和子 「!? …… 」
川添 「移植という プロジェクトに組み込まれ
て、 あっちへやられたり、 こっちへやられ
たり …… 安達さんはまるで、 臓器を取られ
て死ぬために、 この病院へ来たみたいだっ
た ……。 僕が安達さんにしたことって、
一体何でしょう? もし僕が、 あの人に蘇生
術を ほどこさなかったら、 いや、 もしこの
世に 蘇生術なんてものがなかったら ……
安達さんはもっと安らかに、 天に召された
かもしれないのに ……。 医学は、 何のために
ここまで発達してきたんでしょう …… ?
(一粒の涙が落ちる)」
美和子 「川添先生 …… 」
緒方 「医学の歴史は、 人体実験の歴史だ。
それが人々を 幸福にしていく。 我々は危険思想
ぎりぎりのところで 生きているんだ …
…」
美和子 「 ……… 」
(次の記事に続く)