「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

希望 …… 「生死命の処方箋」 (68)

2011年01月04日 21時07分09秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)
 
○ 六義園

  美和子と世良が歩いている。

美和子 「 …… 安達さん、 結局 助からなかった

 …… 」

世良 「あの状態では、 やはり無理だったん

 だ」

美和子 「やっと 死ぬことができた …… それで

 ほっとしたっていう気持ちが、 どこかに

 正直ある。  これって 一体何だろう ?」

世良 「それも 本当の美和子の心だろう。  でも

 オペのとき  『やめてください』 と叫んだの

 も、 本当の美和子だよ」

美和子 「 ……… 」

  二人、 池を見ながら佇む。

世良 「 …… 会社、 やめることにしたよ …… 

 少し時間がほしい」

美和子 「いつまで …… ?」

世良 「分からない ……。  でも、 この取材は

 一人で続けていく」

美和子 「連絡、 ちょうだい …… 落ち着いた

 ら」

世良 「ああ …… 」

美和子 「あたしたち、 “もう元には戻らな

 い” …… ?」

世良 「 …… 」

美和子 「まだ、 死んでないよね …… ?」

世良 「 …… 人間だからな …… 」

美和子 「待ってる …… 」

世良 「 …… 美和子 …… 」

美和子 「うん ?」

世良 「君には、 持ってほしい …… 」

美和子 「何を ?」

世良 「(美和子の肩に手を置く) …… 力と、 

 心と …… 」

美和子 「 …… (見つめる)」

  世良、 ゆっくり踵を返し、 離れていく。

美和子 「 …… (見送る)」

  世良、 立ち止まり、 振り返る。

世良 「 …… 俺、 真剣に考えてみるよ …… 今の

 日本で できるかどうか分からないけど…

 …」

美和子 「何 …… ?」

世良 「 …… 生体肝移植 …… 」

美和子 「 ……… (声にならない)」

  涙があふれてくる美和子。

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする