(前の記事からの続き)
○ 六義園
美和子と世良が歩いている。
美和子 「 …… 安達さん、 結局 助からなかった
…… 」
世良 「あの状態では、 やはり無理だったん
だ」
美和子 「やっと 死ぬことができた …… それで
ほっとしたっていう気持ちが、 どこかに
正直ある。 これって 一体何だろう ?」
世良 「それも 本当の美和子の心だろう。 でも
オペのとき 『やめてください』 と叫んだの
も、 本当の美和子だよ」
美和子 「 ……… 」
二人、 池を見ながら佇む。
世良 「 …… 会社、 やめることにしたよ ……
少し時間がほしい」
美和子 「いつまで …… ?」
世良 「分からない ……。 でも、 この取材は
一人で続けていく」
美和子 「連絡、 ちょうだい …… 落ち着いた
ら」
世良 「ああ …… 」
美和子 「あたしたち、 “もう元には戻らな
い” …… ?」
世良 「 …… 」
美和子 「まだ、 死んでないよね …… ?」
世良 「 …… 人間だからな …… 」
美和子 「待ってる …… 」
世良 「 …… 美和子 …… 」
美和子 「うん ?」
世良 「君には、 持ってほしい …… 」
美和子 「何を ?」
世良 「(美和子の肩に手を置く) …… 力と、
心と …… 」
美和子 「 …… (見つめる)」
世良、 ゆっくり踵を返し、 離れていく。
美和子 「 …… (見送る)」
世良、 立ち止まり、 振り返る。
世良 「 …… 俺、 真剣に考えてみるよ …… 今の
日本で できるかどうか分からないけど…
…」
美和子 「何 …… ?」
世良 「 …… 生体肝移植 …… 」
美和子 「 ……… (声にならない)」
涙があふれてくる美和子。
(次の記事に続く)