今年の香港の映画作品賞は時勢を反映したものとなった。
「香港のアカデミー賞」と呼ばれる香港電影金像奨の授賞式が3日に行われ、自主制作映画「十年」が、最優秀作品賞を受賞した。
この映画は監督5人が共同で制作し、昨年12月に公開された。5話の短編で構成され、中国政府の影響力が強まった、2025年の香港社会を描いている。
その内容は暗く恐ろしい。
例えば、広東語しか話せないタクシー運転手が、本土で使われる標準語の使用を義務付けられる話。また、香港政庁前で抗議の焼身自殺をする女性の話や、禁書を扱った書店が襲撃される話など、中国政府によって、香港の言論や表現の自由が奪われる未来が描かれている。
香港でのヒットとは対照的に、中国本土の反応は冷ややかだ。
中国国営メディアの「環球時報」は、1月にこの映画を「思想のウイルス」と非難した。本土での授賞式のネット中継も取り消されたという。
香港で高まる民主化を求める動きと言論弾圧
この映画が予告する未来は、現実離れしたものではない。
香港では、2014年9月、民主的な選挙を求めるデモ「雨傘革命」が起こり、連日世界中のメディアによって報道された。デモ後も、今年3月28日、香港の 若者たちが中心となって、「民族自決・香港独立」を目指す香港民族党の設立を宣言するなど、民主主義を求める香港の人々の声はいまだにやまない。
一連の香港人の民主化を求める動きの裏で、中国側も規制を強める。
中国共産党に批判的な本を出版した香港の書店関係者が、昨年10月から12月にかけて、謎の失踪を遂げた。その後、全員が中国本土で拘束されていることが 確認され、責任者である李波氏ら3人は無事に香港に帰還した。ただ、李氏が中国本土へ自ら訪れた記録はないため、中国当局が「一国二制度」の原則を破って 連行したのではないかとの見方が強い。
香港の民主化運動に釘を刺したい中国側の狙いが透けて見える。
国際社会の協力で香港の自由を守れ
香港では、一国二制度の下、2047年まで自治が認められている。しかし、2017年の行政長官選挙は、中国政府が認めない人物が立候補できない仕組みになっており、香港の自治は、急速に失われつつある。
民主主義や自由の価値観の下、香港の人たちが自分たちで国の舵取りをし、そうした価値観を中国本土へと広げていける未来が望ましい。今回の最優秀作品賞受賞のニュースは、香港の自由と民主主義を守るため、国際社会が協力していく布石になるかもしれない。
(冨野勝寛)
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