事務職の労働時間規制除外など提言…規制改革会議(読売新聞)
最近「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」(これもまた「日本版」!)などという言葉が盛んに言われていて、年収ナンボ以上は残業代を出さないぞ、というような話がとびかっているのですが、実のところどうなんだろうと改革・民間開放推進会議の最終答申規制改革・民間開放の推進に関する第3次答申を読んでみました。
該当箇所の記載(P.86、下線筆者)は
(2)労働時間法制の見直し等
労働時間法制の見直しについても、労働契約法制の整備と平行して、労働政策審議会における検討が精力的に進められている。その見直しに当たっては、これまで当会議が繰り返し指摘してきたように、労働時間規制の適用除外制度の整備拡充が中心的な課題となる。
経済社会環境の変化に伴い、多様な働き方を選択する労働者が増えるなか、ホワイトカラーを中心に、自らの能力を発揮するため労働時間にとらわれない自律的な働き方を肯定する労働者も多くなっており、自己の裁量による時間配分を容易にし、能力を存分に発揮できる就業環境を整備するためには、そうした労働時間にとらわれない自律的な働き方を可能にする仕組みが強く求められている。
具体的には、このようなホワイトカラーの従事する業務のうち、裁量性の高い業務については、労働者の健康確保に留意しつつ、労働時間規制(深夜業規制を含む)の適用を除外する制度の新設に向けて検討すべきである。また、現行の企画業務型裁量労働制についても、見直しに向けた検討を行うべきである。
以上を踏まえ、検討結果を早急に取りまとめ、次期通常国会に法案を提出する等所要の措置を講ずべきである。【次期通常国会に法案提出等所要の措置】
なお、以上のほか、事業場外労働に関するみなし労働時間制度についても、事業場外労働の実態を踏まえ、制度の運用の見直しの検討を行い、結論を得るべきである。【上記法案の施行までの間に検討・結論】
今までも労働時間規制の例外として専門業務型裁量労働制(研究開発・出版・「士業」などの専門職対象)と企画業務型裁量労働制(事業運営上の重要な意思決定を行う業務)の二種類が認められていたのを広げようというものです。
本来はexemption=免除ですから、一定以上の地位にある従業員は出退勤や勤務時間の拘束から自由だ、ということなのでしょうが、逆に労働時間の制約がなくなると長時間働くようになることが前提になっているあたりが「日本版」なのかもしれませんね。
でも、下線部はなんとなくきれいごと、というか本末転倒じゃないでしょうか。
裁量労働時間制というのは
使用者側の「これだけ払ってるんだから残業代などとつべこべ言わず働け!」
と
労働者側の「給料に十二分に見合った仕事してるだろう、文句言うならやめてやる!」
との緊張関係があるところに初めて成立すると思います。
この緊張関係は、①前述のように歩合給が高いか、②雇用の流動性が高くかつ十分固定給が高いところで初めて成り立つのではないでしょうか。
もともと歩合制の営業で「固定給月20万、一発当たれば年収1000万以上」というような職種は職種は昔からあったわけで、これらの人は(その適法性はさておき)残業代などお構いなしに夜昼なく働くわけですし、逆に成績が充分に上がる人は勤務時間は短くて済むわけです。
バブル期などは、証券会社の店頭で(自分のための)売買注文を出す合間に客に電話で営業して仕事をしていたという剛の者もいました(で、本業は3000万稼いで株で1000万損したらしいですw)。
こういう人たちの流動性は高く、業種自体が稼げないとなると大規模な転職が起こったりします。
でも、単に年収700万とか900万とかもらっているからといって、好きで(覚悟して)ハイリスク・ハイリターンの職業を選んだわけでもない人が、上から与えられた目標をクリアするために必死で働くことが「自律的」な労働とは思えないんですよね。
一時期の流行もあり、成果主義賃金体系とか目標管理制度はかなりの企業が導入していると思います。
その場合、「成果」や「目標」が他律的に設定される中で(その設定や達成度の評価が合理的にできないところが成果主義の問題点と言われています)それを達成しようと「自己の裁量により能力を発揮」するために労働時間の規制を緩和する、ということが「労働者に肯定」されるためには、成果達成の場合のインセンティブが相当程度大きくないとダメなのではないでしょうか。
雇用の流動性が低く、「リセールバリュー」が低いマーケットでは現状の給与を転職によって維持することが難しい人が多いとすると「泣き寝入り」が増えることにもなりかねません。多分700万のラインを400万にしても、若手を除く多くの人は裁量労働制の適用に反対はできないと思います。
逆に使用者側からは、パフォーマンスの著しく低い従業者でも解雇することは事実上不可能、という現在の労働法制・判例が足かせになっています。
なので、能率が悪くダラダラ残業をしている人(ホワイトカラーでは工場のように生産ラインを止めて残業をコントロールするというようなことができない)の方がきちんと仕事をしている人より給料が高い、ということもおきてしまいます。
全社的な労働分配率を適正に保ったとしても、総人件費に占める残業代という法定の部分の割合が多いと、優秀な人材への配分を十分にできなくなってしまいます。企業としてはそういう「横になったもの勝ち」を横行させるのは望ましくないと考えるのも当然です。
しかし、解雇の要件の緩和は、それだけが先行するとかえって悪影響が大きいでしょうから、まずは企業側からカードを切って「当社は○○職以上は労働時間規制の適用を受けない」と宣言して、その体系が労働市場の評価にさらしてみるのがいいのではないでしょうか。採用を2,3年続ければ結果はでると思います。
一方で、今度は残業どころか「遅出・早帰り」という形で開き直る人も出るかもしれませんが、もともと大して働いていない人であればコスト増にならないだけまし、と考えられますよね(「早く帰る人はやる気がない」という風潮ができちゃうとそれはそれで困りものですが・・・)。
今の議論のように厚生労働省が「年収○○万円」と線引きをしてしまうと、個別の企業や業務の特性にかかわらず横並びで実施されてしまって、結局それぞれの企業の賃金体系のゆがみが是正されるどころか拡大することになってしまいかねないと思います。