一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『河北新報のいちばん長い日』

2012-01-11 | 乱読日記
東北の地元紙河北新報が、記者や従業員、販売店も被災し、機械設備や通信網などのインフラも寸断される中で新聞を発行し続けた記録です。

記者だけでなく、販売店、輸送スタッフ、支援に回った従業員全員の新聞を届けるという使命感と一体感は感動的です。
一方で、自らの被災と生活の維持、原発リスクへの対応、被災者を取材することへの迷いなど自らが直面した苦悩やジレンマにも焦点をあてることで、より被災の現実が浮き彫りになっています。

また、人々のがんばりだけでなく、物資の調達、機材の復旧、取材手段や配達ルートの確保、新潟日報との提携などは究極のBCPの事例としても後世に残る記録だと思います。


同様の震災の記録であるNHK出版の『明日へ 東日本大震災命の記録』を読むと、多数の記者が現地入りし、交代要員も充実していて、中には「取材先の富山からタクシーで現地入り」など、人員・資材・予算の河北新報との差は圧倒的です。


NHKはヘリコプターからの津波映像を全国放送しました。
しかし被災当日、テレビやラジオもネットも携帯電話も通じずに情報のない避難所に、紙の号外と言う形で情報を伝えたのは、自らも被災し、もともと強くない兵站が寸断された河北新報だけでした。


地方紙の矜持ここにあり、という渾身の一冊です。



PS
『河北新報』を読んだあと『明日へ』を読むと、NHKのスタッフは恵まれてるし被災者への共感も安全な場所からの視線だよな、と思ってしまうかもしれません。
私は逆の順番で読んだのですが、ふりかえってちょっとそういう印象を受けました。

ただ、NHKは公共放送として、どんな事態があっても全国にニュースを届けるのが使命であり、そのために膨大なインフラを持っているわけで、そのこと自体を「恵まれている」と責めてもしかたがないわけで、その分NHKでなければできない報道をしてもらえばいいわけです。
 その意味では、震災からの復旧についてや原発問題を継続的に取り上げているのは評価できると思いますし、これからもがんばってほしいと思います。



PSその2
『河北新報』の帯や『明日へ』の中にも「被災者に寄り添う」という表現があります。NHKの番組でもキャスターの発言でよく出てきます。
このフレーズは確かに視線を同じにして気持ちを分かち合い支える、というようなニュアンスをうまく表わしているとは思うのですが、ちょっと「便利使い」され過ぎのようで気になります。
「決まり文句」=判断停止になってしまわないように、使う側も気をつけたほうがいいと思います。







コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする