単なる内幕暴露本ではないが・・・
著者は東大卒で元国税調査官になったものの4年で退官、在職中に合格した税理士資格を取得し、税理士とともに税理士向けの税務調査対策コンサルタントなどをやっている人です。
本書は著者の税務署職員時代に感じた違和感と税理士になって直面した理不尽とも思える税務署員の行動について、税務署の実態から解説しています。
残念なところは、「税務署はこんなに楽」という勤務条件や福利厚生面での記述が多いことで、読んでいて「それは地方公務員とか国家公務員の一部にも言えるだろう」ということに多くの紙幅が割かれていることです。
(そして、昭和の頃の銀行の支店とも似た雰囲気を感じました)
参考になったのは税務署員の行動原理について触れた部分です。
中でもなるほど、と思ったのは「挑戦的課税」
これは、脱法的だがグレーゾーンの節税に対して、とりあえず税金を課税しちゃえ、という傾向を言います。
一番いい例が武富士事件です。
挑戦的課税の一番の目的は、勝ち負けに関係なく、世間の注目を集めて法律の抜け道がクローズアップされることで、法改正を実現させることにあるといいます。
・・・国税局の幹部職員が、研修で以下のような話をしていました。
「法律を変えるのは大変だし、実際に法律を作成する主税局の職員は忙しいから、法律の抜け道に対して、適宜ブロックする法律が成立しないことを責めることはできない。むしろ、悪いのは法律の抜け道を利用しようとする納税者で、法律を変えるためには、勇気を持って勝ち目のない裁判をしても致し方ない」
武富士事件は結果的に国が敗訴し、課税した1500億円に対する利息相当の還付加算金が約400億円というのですから、立法コストとしては相当高くついたわけです。
税金を掛け金にしてギャンブルをするような「挑戦的課税」が起きる一番の問題は「主税局の職員は忙しいから・・・」という上には物申せない文化にあるように思います。
後半は税理士を目指す人へのアドバイス(税理士事務所につとめるより税務署職員のほうが勉強時間もあるし、永年勤続すれば科目免除や試験自体免除の特典もあるetc.)が主になるので、興味のある方は。