枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

悠紀の彼・2

2023年11月04日 | Weblog
 悠紀は、態度にも言葉の流れを巧みにしたので気づかれることはなかった。職場の雰囲気も仕事柄、気を抜くことはなく取り組めるのは有難い。植物の分類と薬草としての効能で、調べていく程に奥が深い。お喋りは植物の異種であり、何がどのような作用をして用いれるかが課題でもある。根気と辛抱強さは必要。

 職場には十数人が居るが、衝立で仕切ったり観葉植物等の鉢も置かれている。悠紀は、植物の成分を知りたく煎じて飲んでもらう。ところが不評なことこの上なく、不味いの嵐が巻き起こり茶托を見ようものなら皆の姿は消えてしまう。彼は何も知らず、机の上に置かれたそれを不思議そうに眺め、眼を細て飲んだ。

 そして一言「これ何?」悠紀は「当てたら偉いわ」すましていた。彼は暫らく腕組をして天上を見ていたが、会社の敷地内にある薬草園に向かった。悠紀は、にこやかに微笑むとバイバイと左手をひらひらさせた。課長のぎろりと睨む顔に、特上の笑顔を返しながら彼の医務局行を予感した。内線が悠紀に掛かった。

 翌日、彼はリボンを架けた小さな小箱を悠紀に渡した。彼がにまっと笑う顔に、悠紀は唇を引き結んで「何これ?」怪訝な声音で言うと「昨日のお礼だよ、俺の気持ち」「あらっ?お礼じゃなくてお茶の成分でいいわ」「あれね、蓬・どくだみ・夏枯草・神輿草・枇杷も入ってた」悠紀は、頷き指を丸くして見せた。

 彼は、悠紀が小箱を開けるのを見ている。悠紀は小箱をじっと見ていたが、そのまま机の真中に置き仕事を始めた。部署の皆の視線が刺さるのを感じたが、休憩時間までは開けられない。ベルが鳴り、右隣の川上君が「見てみろよ」せっ突く。悠紀は平然と「開けなくてもいいの、炭が入っているわ」隅に置けない。

 彼は椅子から転げ落ちそうな位に仰け反って笑い、川上君はきょとんとした儘。勝負ありだわね、悠紀は彼に最高の笑顔を向けた。手洗いに行くと咲子が喋りまくって、彼の機智に富むやり取りに人気度は急上昇中らしい。候補者続出で、一ヶ月も経たない内に連れ立って歩く現場遭遇だ。悠紀には年下、差が大。
コメント (3)
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