枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

悠紀の彼・10

2023年11月09日 | Weblog
 悠紀は、漆黒の闇に浮かんでいた。身体が其処に融け込んで、冷たく寒いのは判るが自由を奪われていて動けない。恐怖ではなく、畏怖の念が果てしなく広がっている。心の中に言霊で伝わり入る為、心地よさをもたらせ同時に何処からともなく調べが聴こえる。悠紀は、身体の存在しないことを疑わなかった。

 本箱の少ない書籍に、特殊能力に関する物がある。小さい頃から悠紀には、物を触らずに壊したり思考が判ることがあった。それらのどれも、心で念じれば起きるのと相手が思うことに応じてしまう。悠紀に対して、意地悪や困らせようとすると本人に返る。祖母は、悠紀の力を知ると隔世遺伝に狼狽え怯えた。

 両親は悠紀に何も話さない侭に、愛情の限りを注いで育んだ。悠紀がそのことに気づいても、祖母を始めとして態度は変わらず日常を過ごしてきた。悠紀の視た映像は、鮮明で具体的な内容だが彼に知らせるには困難を極める。彼と何処かで遇うの?その可能性はない気がするものの、想いが迸り勢い広がって。

 悠紀は、心の中に渦巻く青い光を視た。仔猫のすばるがにゃあぁ~と鳴きながら翔け、悠紀の周りをぐるぐると旋回する。次の瞬間、その光が空間を突っ切り流れて往くのが観えた。悠紀ははっとして瞳を瞠った、彼の許に繋がっていくんだわ。わたしの想いを連れて、彼方へと星が流れるように届けられるわ。
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悠紀の彼・9

2023年11月09日 | Weblog
 悠紀は着替えると、朝食もそこそこに急用優先で部屋の片づけを始めた。仔猫は、餌を喰むと毛繕いを入念に終え眠り出した。仔猫の遊び場を作り、排泄と餌置き場を確保したら悠紀の居場所が机だけになった。本箱が窮屈そうに、部屋の隅で小さくなっている。その殆どは植物に関する物、資料でもあるが。

 午前中かかって部屋の掃除も済ませ、台所に行くと祖母に不信顔を向けられた。お祖母ちゃんの言いたいことは分っているが、今は聴いてくれるな。悠紀は、自分の為にオムレツを手早く用意し口に運ぶ。お茶が出されているのに「ありがとう」何時ものだと含んだら…にがぁ!千振じゃないのよ、やられたわ。

 祖母の無言の遣り口には慣れているものの、今回ばかりは話せない。言えばきっと、探求心の塊の祖母は現場検証を始め刑事さながらに証拠物件追及する。悠紀は、仔猫が無事であったことだけで満足。想いは複雑にあるけれど、犯人が分かってどうする?すばるはうちの仔なので渡せないのが確かなだけでも。

 昨夜からの疲れに、悠紀は仔猫を抱きかかえたまま椅子にもたれて転寝をしていた。眠っているのに、鮮明に視える景色と人物が居るのが判る。後ろ姿だが、彼だ。声音もちょっとした仕草や、歩き方の特徴まで。何だろう?彼の人生に関与する気持ちはなく、今更元にも戻れない。ところが、頭の片隅に点滅。

 悠紀は胸を締め付けられて、その息苦しさにもがいた。叫ぶにも声が出ない、瞳を開けようにも瞼が塞がった侭でアロンαを塗られたみたい。胸に痛みを感じて、重い瞼をこじ開けたら仔猫の心配そうな顔がある。悠紀はほっとして、すばるを撫でたが胸には爪跡が付いて血が滲む。援けてくれたの?仔猫のすばる。
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