枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

悠紀の彼・8

2023年11月08日 | Weblog
 悠紀は、仔猫用の餌と排便砂をホームセンターで買い部屋の中に置いた。パソコンのメールを開き山本君宛に、明日は急用ができて休むと記して送った。遅い時間だが返事は直ぐに来て、OKとあった。悠紀は猫を飼ったことがなく、それも仔猫なので戸惑いの方が大きい。でも、か細い声で鳴いていれば放置できない。

 両親との同居が、決して不自由はないのも条件には都合良い。祖母には黙っておきたい、溺愛の癖があり甘やかしは目に浮かぶようだ。見つかるのは時間の問題でもあり、離れに居る祖母の部屋は悠紀とドア一つで繋がっている。案の定、仔猫はみゃあみゃあと鳴くのを止めない。たっぷりミルクは、飲ませているのに。

 季節は晩秋なのも、寒いのと心細さからか悠紀の胸にしがみつき服の中に潜り込んだ。おかしな感覚だけど、ふわふわの毛が温かくて摘まみ出せない。其の儘の格好で、悠紀は布団に潜ると眠りこんだ。目覚めたのは明け方で、ごそごそ動く気配に飛び起きた悠紀は排泄場所に連行。すばるは失敗もせず、用を足してる。

 悠紀ははっとした。仔猫は、もしかしたら誰かが飼っていて捨てた?側溝にだと、抜け出せないし助ける物好きはいないと判断してだろうか。悠紀には、その行動が信じられない思いだった。猫と云えども命はある筈、人間の勝手都合でできることに怒りがこみあげる。すばる、家に来てくれてありがとう。星の使者か。
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悠紀の彼・7

2023年11月08日 | Weblog
 咲子が会社を辞めた。悠紀は、仕事自体が合うことで救われた。毎日、顔を遭わせるには泪の海は深すぎる。悠紀は「気持ちが落ち着いて納得したら、帰ってくれば」と伝えた。「考えとくわ」咲子の天真爛漫さが、仇のような変身ぶりに悠紀は哀れさを覚えた。彼への想いは本気だったと知り、咲子の後姿を見送った。

 彼は、程なくして菓子屋を継ぐことに部署の机は消えた。悠紀にとっての彼は何の役目で出現したか謎だが、日常も仕事内容等は変化がない。そういう廻り合わせなんだと、彼への思慕も面影も部屋に閉じ込め鍵をかけた。悠紀は、以前にも増して仕事に没頭し舞台裏を選んだ。ある日の帰り路、猫の鳴き声が聴こえた。

 夕闇の迫る中、声の主が何処にいるかが分かり難い。悠紀は耳を澄ませ心をゆっくりと向け、鳴き声に瞳を凝らした。道路の側溝に、僅かな欠けがあり声はそこからしてる。救出するには、側溝を上げないと手が入っても掴めない穴だ。悠紀は、腰を落として側溝を持ち上げようとしたが意外に重い。棒切れがあれば…

 近くにコンビニがあるが、頼んでみようか。いやいや待てよ、側溝には土が入り込んでいるのを取れば?持ち上がるかもしれない。悠紀はカバンの中からボールペンを出し、しゃがみむと土をほじった。思った以上に土が埋まっているのを、やっとの思いで除けた。側溝の穴に片手を差し込み、反対の角を軸に支える。

 どぶの中に、小さな目が光っていた。カバンには何時もタオルを入れているのを出し、仔猫を包み込む。悠紀は電車には乗らず、自宅までを歩いて帰り洗面器に容れて洗いタオルで拭き取った。瘦せこけた真黒の仔猫の目は清んでいて、星が閉じ込められたかに見える。「すばる・ね」悠紀は仔猫に語り、抱き上げた。

 二十四節気 立冬 陰気深く籠り、冬の気立つと言う意で、立冬と云う。次第に、寒気深くなる。十一月七日頃である。
コメント (4)
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