一昨年、大阪堺・北野田で行われた新国劇の残党たちの劇団、
劇団若獅子の公演で、「蛍火~お登勢と龍馬」を観た。
ライフワークとされたお登勢を演じたのは、淡島千景さん。
松竹入りして小津作品などにも出ていたが、
オダサクファンの私どもにとって淡島さんというと昭和30年の「夫婦善哉」に尽きる。
放蕩な夫柳吉のために苦労する蝶子。生活の疲れも見せず、初々しくきれいだった。
東京出身を感じさせない、見事な大阪弁。
さすがは宝塚の名花。手塚治虫がリボンの騎士で描こうとしただけの女優だ。
そういえば、宝塚出身でもこの人ほど男性の噂も聞かず、
凛とした存在は周囲にはいないのではなかろうか。
久慈あさみ、乙羽信子、寿美花代、憧れて名前を付けたという扇千景、
八千草薫、朝丘雪路…独特の鷹揚さはあっても、この方ほど清廉で一本筋の通った
存在はそうはいないと思う。
女優であり、教師であり、宝塚を退団して女優道を進む、ひとつの目標がここにあった。
5年前、中日劇場「あかね空」で拝見して以来だった。
貫禄は感じても、まったく老いは感じない。
初々しい感性は持って生まれたものなのだろう、
実際は老境に入っておられるだろうが、それは変わりはなかった。
楽屋にお訪ねし、出て来られた淡島さんは
千秋楽だったので、忙しく片付けに取りかかっておられた。
「こんな恰好でごめんなさい…」と楽屋着の淡島さんは、
髪もざんばらで、私ごときに言われたくないだろうが、
きれいなおばあちゃんになっておられた。
写真を撮ろうとした同行者に、柔らかく制して立ち話を。
そりゃそうで、このお姿は撮ってはいけない。瞼でシャッターを切るべし。
舞台との変わり身が鮮やかで、さすがは女優さん、お見事と拍手したくなった。
享年87歳。 最期まで舞台に立ち続けた。 合掌