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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 610 強すぎる勇者

2019年11月20日 | 1976 年 



もうパ・リーグの前期優勝は決まったと、早合点ではなくそう思っているファンも多い。それほど阪急の快進撃は凄まじいのだ。しかしこの世界は余り勝ち過ぎても上手くないようなところがあって関係者は複雑な気持ちなのだ。

山口の出番もない憎らしいほどの強さ
今や阪急の快進撃にファンや一部のリーグ関係者は浮かない表情を隠さない。何はともあれ阪急の強さを御覧あれ。開幕は近鉄戦。昨季のプレーオフの再現となったが戦前の予想では近鉄有利の声も少なくなかった。なにしろ阪急は開幕を目前に控えて主力陣に故障者が続出した。足立投手は練習中にバットで後頭部を強打、山口投手は右膝に打球を受けて揃って病院送りに。他にも加藤選手は右足首を捻挫、長池選手は肉離れで戦線離脱。上田監督の表情も曇り、フロント幹部は「これは一大事」と急きょ神社で厄払いをしてもらい、球場内の事務所や選手のロッカーや通路まで至る所に清めの盛り塩をするなど大変だった。

ところがイザふたを開けたら第1戦は加藤の代役・高井選手が三番に座り本塁打を放つなど活躍し、開幕投手を務めた山田投手が完投勝利。第2戦こそ敗れたが第3戦は期待の戸田投手が完投勝利して開幕3連戦を勝ち越した。表情の暗かった上田監督もゲンキンなものですっかり上機嫌になり「とにかくウチの団結力は天下一品。故障者の分を全員でカバーしようと張り切っている。マルカーノや福本だけでなく各選手が自分の仕事をこなして上位下位の切れ目なく打線は機能している。いずれヒデ(加藤)もタカシ(山口)も帰って来る。当初の予定通り開幕ダッシュを狙う(上田監督)」と記者団を前にお喋りが止まらない。

当面のライバルの近鉄戦に勝ち越した勢いで日ハムも撃破していく。戸田の完投勝利に刺激を受けた白石投手や大石投手が相次いで完投勝利を収めた。続く宮城での10日からのロッテ戦では試合前に宮城県知事や歌手の郷ひろみまで登場し華やかに行われたセレモニーが挙行されて金田監督が「今年は阪急を倒して2年ぶりに日本一になる」と高らかに宣言するも阪急打線がロッテ投手陣を粉砕して3連勝。開幕して7勝1敗(4月15日現在)と山口不在の心配は取り越し苦労であった。

「もうリリーフなら十分に投げられるのに、リリーフは必要ないと言われて投げさせてくれない」と13日の西京極球場での南海戦の試合前、病院通いも終わり出番を待つ山口は憮然とする。先発する投手が次々と完投するので出番が回って来ないのだ。投手起用に頭を悩ます長嶋監督が聞いたらヨダレを流しそうなくらい阪急投手陣は万全の状態である。加えて打線も好調でこの試合も南海先発の江夏投手を早々にKOした。「江夏?あの程度の速球なら苦も無く打てる。変化球だとかコーナーワークといっても速い球がなければウチの打者連中には通用せんよ」と上田監督は余裕の表情。

4月25日で決着がついてしまう?
開幕したばかりだというのに早くも前期優勝は阪急だと断言する評論家もいる。「シンザンかグランドマーチスか知らんが、とにかく競馬で言えばガチガチの本命がスタート直後に10馬身も離してしまったみたいだ。こんなペナントレースは面白くない」と話すライバル球団OBの某評論家。「ボクシングで言えばTKO。セコンドがタオルを投げ入れる寸前」と在阪スポーツ紙記者も既に諦めの心境だ。ライバルであり負けん気の強いカネやんですら「こんな調子ではパ・リーグの灯は消えてしまうで」とお手上げ状態。もっとも「嘆く前にロッテがしっかりせんのがイカンのや。阪急のせいではない、ウチも含めた他球団がだらしないからや」とぼやく。

ところで開幕前に本誌を含めた野球評論家たちの順位予想を集計したところ、22人の内17人が阪急の前期優勝を予想していた。その予想を上回る快進撃だが上田監督は「とにかく手綱を緩めることなく20試合までは油断せずに勝てる試合は全て勝ちにいく。20試合を過ぎて首位なら文句ないが、例え首位でなくても2~3ゲーム差なら優勝のチャンスはある」と話す。つまりは4月25日頃には優勝の目途がつく筈だが、今の勢いなら目途どころかほぼ確実な情勢だ。「またぞろ早々に前期を諦めてしまう球団も出てくるだろう」とリーグ関係者は憂慮している。このままでは6月11日まで組まれている日程の多くが消化試合になってしまう可能性は大きい。


やはり2シーズン制は上手くないのか
こうなると当然、2シーズン制への批判が出てくる。実はパ・リーグは今季から1シーズン制に戻すことになっていた。事前のマスコミ各社の世論調査では2シーズン制の支持は7%、1シーズン制は83%、どちらでも良いが10%だった。そうした球界内外の声を受けて昨年7月と10月に行われたパ・リーグ理事会に6球団の代表が集まって昭和51年度のシーズンから1シーズン制に戻ることが確認された。ところが11月12日、大阪堂島のクラブ関西で開かれたパ・リーグオーナー懇談会で理事会の決定を覆した。しかし6人のオーナー中、2シーズン制支持は1人だけだった。それがなぜ?

オーナー懇談会で1シーズン制に戻す事に唯一反対したのは太平洋クラブの中村長芳オーナー。第1の理由は興行面で1年のうち二度の優勝があることでより多くの集客の確保が見込める。第2には1年を通じて戦うには戦力不足の球団でも短期決戦なら優勝できるチャンスが生まれる。2シーズン制の方が球団にもファンにも利点が多いと力説した。この意見に議長である近鉄・佐伯勇オーナーも同調した。佐伯オーナーは当初は1シーズン制を支持していたが、昨季に近鉄が後期優勝した事で、なるほど2シーズン制も悪くないと立場を変え、そこに岡野パ・リーグ会長の賛同が加わり協議の結果1シーズン制復活は消えた。

かくして今季も前・後期の日程が組まれたわけだがフタを開けてみたらオーナー達の思惑とはかけ離れた状況になってしまったわけで何とも皮肉な結果に。そうした中で阪急だけは胸を張る。「1シーズン制の復活?結構なことじゃないか。2シーズン制の方が弱いチームが優勝できる可能性が有るという考えは甘い。ウチは力で押して前期も後期も勝って勝って勝ちまくる。それで再び1シーズン制に戻そうという動きになるのはウチにとって願ったり叶ったりだよ。元々ウチは1シーズン制支持だからね。今季の目標は前後期ともに優勝して、ややこしいプレーオフを無くすことだね」と阪急フロント幹部は言う。何が起ころうと今季の阪急電車は超特急でノンストップだ!

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