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ウーゴ・ロンディノーネ「孤独のボキャブラリー」。その場を去りがたくなるインスタレーション。 あいちトリエンナーレ : 2019年秋の旅(48)

2019年11月20日 08時24分55秒 | 道外の国際芸術祭
(承前)

 エキソニモ「The Kiss」とならんで、あいちトリエンナーレ2019のアイコン的な存在のインスタレーション。
 専有する面積も他のアーティストの倍ぐらいありそうだ。

 フライヤーなどにも採用されていた写真は、あいちトリエンナーレ2019の会場ではもちろんなく、過去の別会場での写真である。
 フライヤーにあった、虹のアーチのような壁の模様が「あいち」には無い。

 「表現の不自由展・その後」が中止に追い込まれた際、もしウーゴ・ロンディノーネからボイコットの連絡が来たらどうしようと、関係者は肝を冷やしたに違いない。目玉作品の閉鎖はおそらく集客にも影響するからだ。
 しかし、そういう事態にはならなかった。


 この作品はインスタ映えすることもあって人気があり、筆者が訪れたときもいろいろな人がピエロと記念写真を撮っていた。
 ピエロに接近する人も多く、あまつさえ触ったり、肩を組もうと企てたりする人もいて、会場監視員はそれなりに忙しいようだった。

 したがって、また自慢めいたことを書いて恐縮だが、このブログの画像のようにほとんど誰もフレームに入っていない写真を撮影するためには、かなりの粘りを必要とするのである。

 そして、いま「インスタ映え」と書いたけれど、一体一体を撮るのは簡単でも、全体像を撮ってそれなりに見られるショットにするのは、実は相当難しかった。
 ランダムに配置されているので、一列にピエロが並んでいるような写真は写せない。
 それなりにピエロがたくさんおさまって、しかも、遠いピエロと近くにあるピエロがメリハリついて写っているような写真を撮るのは至難の業だった。

 おそらく、配置についてはかなり考えられているのだろう。
 つまり、全容は、会場に行かないとわからない部分が多いのだ。



 ピエロというと、これまでは「人生の哀歓」みたいな安直なフレーズに回収されることが少なくなかった。
 (あと、近年ではホラーの文脈もあるだろう。)

 しかし、このインスタレーションは、なんだかそういう過去のピエロを描いた作品とは、微妙に違うような気がする。
 人間の感情をすぐに投影できそうでいて、そんなことを簡単には許さないような深い深い孤独にピエロたちが陥っているようにも見える。


 人と人は、わかりあえるし、わかりあえないこともある。
 わかるかわからないか、そんな乱暴な二分法にはつきあわないほうがいいだろう。

 たとえすべてをわかりあえないとしても、とりあえずしばらくの時間、そばにいることはできる。
 そして、ことばをかわさなくても、なにひとつ解決しなかったとしても、そばに誰かがいるというだけで、そのやさしさが孤独の氷をすこし溶かしているのだと思う。
 

 公式サイトの文章をコピペすると、次の通り。


まるで生きているかのような、ピエロの彫刻45体によるインスタレーションです。色鮮やかな衣装を身にまとってはいますが、彼らは無表情を貫いています。この作品はロマン派やシュルレアリスムなどの美術史の文脈に加え、ポップカルチャーの動向、道化やマイムの来歴も参照しています。
ピエロにはそれぞれ、彼らの行う行為から名前がつけられています。

佇む/呼吸する/寝る/夢見る/目覚める/起き上がる/座る/聞く/見る/考える/立つ/歩く/おしっこする/シャワーを浴びる/着る/飲む/おならする/うんちする/
読む/笑う/料理する/嗅ぐ/味わう/食べる/掃除する/書く/空想する/
思い出す/泣く/居眠りする/感動する/感じる/うめく/楽しむ/浮かぶ/愛する/
望む/願う/歌う/踊る/落ちる/罵る/あくびする/脱ぐ/嘘をつく

全体として、一人の人間が、人生のとある一日、その24時間で繰り返し行っている家の中での孤独な振る舞いを示しています。



 筆者はひととおり、愛知芸術センターを見終わったあと、このピエロの部屋に戻ってきて、しばらくの間ピエロのとなりにすわってぼーっとしていた。



 さて筆者は、下の世代と違って、自撮りをするという発想がほとんどない。
 そのため、どこに行っても、風景や作品の写真しか撮っていない。

 それでは、いささかさびしいと思ったので、珍しく、通りがかったお客さん(男性)に頼んで、1枚撮ってもらった。

 顔がばれるとギャラリー巡りが自分のペースでできなくなるおそれがあるので(もう遅いという声もあるけど)、筆者は自分がうつった写真をネットに上げないようにしている。これはレアな1枚です(笑)。




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