跡地というものは懐かしいものである。
城跡、遺跡、古代ローマの劇場跡。
いずれも一抹の哀愁とともに懐かしさを感じる。
ああ、ここにそうしたものがあったんだ、という感慨。
日本人なら誰でも抱いている、心のふるさとに近いものがある。
弁当にも跡地があることは、あまり知られていない。
例えば梅干しの跡地。
少し窪んでいて、少し赤く滲んでいる梅干しを食べたあとの跡地。
その跡地を見て「ああ、かつてここに梅干しがあったんだ」、という感慨にふける人は少ない。
城跡とは比べものにならないが、これも立派な跡地である。
ちょっとだけ塩っぽく、ちょっとだけ酸っぱく、梅干しの匂いも少し残っていて、この跡地は美味しい。
弁当を食べるとき、いつもこの跡地を大切に思い浮かべながら食べると、弁当が一層美味しくなるのであった。