上品さ、という点では丼物の中で親子丼が一番であろう。
親子丼は田園調布あたりの初老のご婦人が似合う。
それも日本橋などの店で「ちょっとお昼に」という感じで食べとお上品である。
しかも「あたしとしたことが、こんな丼物など食べて、はしたない」と思いつつ食べるものである。
しかし親子丼には主役がいない。
鶏肉という主役がいないわけではないが、この主役はこま切れにされて各方面に散ってしまっている。
しかもタマゴに埋もれて見え隠れしている。
カツ丼や天丼のように堂々とその主役としての全容をあからさまにできない。
親子の関係でありながら、親は子の中に身を隠したりしているのである。
何かそうしなければならない事情があるかもしれない。
サラ金に追われているのかもしれない。
親子丼をつくづく見る
親と子がバラバラに解体されて、子は親にまみれ散乱している。
その惨状は悲劇である。
思わず合掌して、線香の一本でも立ててやりたくなる。
JR宍道駅前、こわた食堂の親子丼650円でした。