定期演奏会会員になっている地元交響楽団の演奏会が開かれるキタラホールのある札幌中島公園の西側に文学館を開設している渡辺淳一氏が先月末に逝去。同氏の作品を最初に知ったのは「無影燈」という医療及び恋愛小説だった。のちに田宮二郎と山本陽子が出演したTVドラマ白い影の原作。最後の主人公の遺書が感動的な力作。溺死体が湖底に沈んでいる木に引っ掛かって決して浮上することはない、というのは、真偽はともかく、支笏湖の旅情を誘うに十分な設定で、初めて冬の支笏湖を見たときにはついその小説の情景に重ね合わせたものだった。
海外旅行にも懇意にしている女性を同伴するなど、艶福家としても一流。かつてアイスランドとのビジネスがあったとき、彼が日本アイスランド協会の要職についていることを聞いて、やはり北海道との縁を感じたものだった。
彼が今後文学史上どのような評価を受けるのかは知らないが、文化的には男のある種の欲望を堂々と小説作品に仕立てた業績は大きいのではないか。もちろん、彼のように女性を引き付ける魅力の持ち主でなければならないが。1990年代日本経済が出口の見えない停滞感のなかにあったときに、人が生きるための意味は経済以外、すなわち性愛にあることを大胆に提示したこのジャンルの小説が日本経済新聞の連載小説として茶の間から職場にまで入り込んだことは画期的なことだったということは疑いない。彼の小説にはいつも死の影が付きまとっている。今頃はあるいは彼の小説の中で逝ってしまった多くの登場人物たちと談笑しているのかもしれない。
合掌。