こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

禁煙喫茶店の顛末記

2015年03月04日 00時06分10秒 | 文芸
禁煙喫茶店の顛末記――鉄則破りの末路?

 実は小生、商売の鉄則を逸脱したせいで、8年間盛業を続けた喫茶店を引き継いで、わずか半年で閉めた愚か者である。
 その店とは『禁煙喫茶店』。われながら、よく考えた末に始めたアイディア物だと自画自賛で始めたのだが……。
 そりゃそうだ。もともと喫茶店とは珈琲をいっぱい、煙草を一服、というところ。事実、小生の店もごく普通の商法で、若い女性やアベックの常連客を集めて成功していたのだ。
 繁盛すれば必ず副産物が付いて回る。喫茶店は喫煙客の支援がモクモクってやつだ。間接喫煙の害がやかましく取り沙汰される昨今、元来煙草嫌いの小生にはジレンマの日々だった。
 しかし、決心すると、もう止まらない。B型で射手座の男は、お調子よく走り出すともう誰にも邪魔できない。
「禁煙……?駄目!そんなの、絶対成功するはずないよー!」
 と狼狽える妻を押し切って、
「これ以上他人が喫煙する副流煙を喫わされて、ガンになってたまるかい!それに嫌煙権もやっとこさ市民権を得始めてる時代だぜ。うん!間違いなく成功するぞ!」
 とタンカを切る口調にも自然と力が入ったものだ。
 看板の書き換え、メニューの刷新……余り日時をかけられない零細喫茶店だから、二日店を閉めて泥縄式の衣替えをやってのけた。定食を中心に食事メニューを充実させた。これで成功と妻に胸を張った。
 初日こそ勘違いしてやって来るお客さんはあったが、喫煙できないと分かると、ハイさようならとなった。二日目からは、一日10人に満たないお客さんの数。一挙に閑古鳥が鳴き始めた。もう目の前は真っ暗!
 ただし、反響は凄かった。新聞は全国紙からローカル新聞まで取材に来た。朝日など地域欄の記事だけではなく夕刊紙の一面に掲載してくれた。店の写真とマスター(小生)の顔写真付きである。記事をみて共鳴する手紙やはがき、エールの電話がジャンジャン!テレビやラジオにもよばれた。桂春○と上沼○○子の夫婦を話のタネにしたラジオ番組に、毎日テレビで上岡竜○郎や角さんとのトークまで。めまぐるしい行動を余儀なくされたが、あの手この手で頑張り続けた。
 しかし、所詮は当時における鉄則破りの邪道ともいえる商売。まず喫茶店での一服をこよなく愛する勤め人たち、続いて若い女性たちの総スカンを食った。そして、遂にダウン!
 後悔先に立たずで、いまは、その日暮らしで、華やかなりし日々を未練たらしく偲ぶ身である。
 だいたい、今どき喫茶店に来る女性客の大半は喫煙者なのだ。並の男なら敵わない喫煙本数なのだ。そんな彼女らに見捨てられるのは当然の話だった。
 とはいえ、暴挙の裏側にあった理由は、家族と自分の健康のためだった。
 その思いを遂げて踏み切ったのだから、悔いはない。割合スッキリ気分で喫茶店をたためたのは幸いだった。
 しかし、小生はしばらく胸のうちで叫び続けたものだ。
(ああー!鉄則よ。あなたは強かった。逆らった私が大ばか者だったのだ)と。
(週刊テーミス掲載1990年3月21日号)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする