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こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

詩・生きざま

2015年03月31日 15時05分24秒 | 文芸
生きざま

あたたかさに
だまされて
土筆が
顔をだす
 
わたしは
だまされたら
そっぽを向く

ことばを
紡げないから
昔も今も
逃げる

土筆の
あっけらかんとした
生き方が
羨ましい
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北条鉄道沿線を歩く

2015年03月31日 14時42分52秒 | 文芸
北条鉄道が30周年を迎えたらしい。昨日も沿線を歩いた。のどかな景色に心を癒されながら、着いた駅は播磨横田駅。
すっかり様変わりだ。ギャラリーと駅が共存している。数か月前に来た時は、殺風景そのもの。粗末な駅舎がポツンとういう感じだった。吹き通る寒風に身を縮こめたものだ。
 あの鄙びた風景はもうない。残念な気もするが、パーッと華やかなのもいい。神戸の女性画家の篤志によって実現したとある。北条鉄道もいろんな人たちに愛されているようだ。未来は明るいな。勿論赤字鉄道に間違いはないだろうが。
 子どもの頃から愛着のある鉄道だ。30年と言わず、50年100年と歴史を刻んでほしい。
 ギャラリーにあったふれあいノートを開いた。かなり遠方から来られた方のつぶやきがメモってある。私も触発されてペンを握った。
 プラットホームに立つと、気持ちがいい。桜の木が端から端まで。もうすぐ花開くだろう。その頃を狙ってまた来よう。でも、きっと凄い人だろうな。やっぱり、少し旬を離れた時期に、こうして訪れて、しばし時間を忘れる方が私にはあっている。
 8700歩。少し足りないけど、今日はこの辺で家に帰ります
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コラム・別れの予兆

2015年03月31日 09時13分12秒 | 文芸
 それは突然に訪れた。
 一つ違いの兄。それも二人きりの兄弟との別れだった。当時の私は厄年、兄は後厄。総ての厄を兄が引き受けてくれたとしか思えない出来事が起きた。
 その日、いつも朝早く仕事に出かけて顔を合わせる機会のない兄が珍しく顔を覗かせた。
「おはよう。いまから仕事に行ってくるわ」
 それが兄の声を耳にした最後だった。にこやかに挨拶をする兄の顔を今でも思い出す。
 兄が仕事に出かけた四時間後。入った電話は兄の死を知らせるものだった。仕事の現場は増築中の工場。5メートル近い足場から足を踏み外したのだ。脳挫傷で即死だった。
 当時、他のことは考えられない日々が続いたが、落ち着いたころに、ふと考えた。あの朝久し振りに顔を見せたのは、なにか兄自身に別れの予兆があったのだろうか?
 災厄を引き受けてくれた兄のおかげで、人生六十六年、無事今日に至っている。
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絵手紙ライフ

2015年03月31日 02時22分20秒 | 絵手紙
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小説・ぼくらの挑戦ーそれは(その8)

2015年03月31日 01時13分50秒 | 文芸
 キャストが決定してから初めての稽古は、何とも纏まりのないドタバタしたものに終始した。芝居のイロハを知らない連中が大半なのだから、無理のないことだった。しかし、演出の中川先生は別に怒るでもなく、えらくすました顔で悠々と見物に徹していた。若者たちが右往左往する姿を嬉しくて堪らないといった風に眺めていた。
「君らは、まるっきり自然そのものの素材や。つまり、そうやな100パーセントかの世があるっちゅうこっちゃ。こら鍛え甲斐があるで。最後に東京の舞台でどんな変わり様を見せてくれるか、想像するだけでワクワクドキドキしよるわ。オホン。まあ、そうなるために、少々覚悟はしといて貰わなあかんけどな」
 相好を崩しっぱなしで中川先生はぶち上げた。青年たちの顔つきは真剣そのものになった。
 中川先生の手取り足取りに近い指導は、実に細やかで懇切丁寧、その上終始優しかった。おかげで初体験の素人役者たちは萎縮することもなく、伸びやかに和気あいあいと稽古を愉しみ始めた。気楽にワイワイと基本練習や本読みなどをやっていくうちに、メンバー間の理解は深まった。彼らは仲間になった。中川先生の作戦勝ちだった。
「決して君らは特別の人間やあらへん。驕るな、驕ったら、そいで終わりや。地道に、真面目に積み上げる。普通の人間に出来る唯一のこっちゃ。それが不思議に感動を生みよる。その感動は、僕らが訴えたいもんを、みんなにちゃんと伝達してくれる最高の武器になりよる。ええな、みんな。いま今日からは、自分が何をやってるんか、しっかりと見極めながらの稽古をするんや。のほほんとしとるんは、もう終わりや」
 中川先生が、優しさを一変させ厳しさを前面に押し出したのは、キャストの面々が自分の台詞をおおよそ覚えたタイミングだった。それまで甘やかされて稽古に気を緩めていた誠悟はらは顔色を変えた。ピリリッと緊張感が走った。
 先を読んだ計算のなされた中川先生の緻密極まる指導は、素人役者らにそれなりの演技力を引き出した。中川先生の指導力は適格に効果を上げた。青年らは短期間のうちに、みるみる成長を遂げた。その指導は外面だけではなく、同時進行の形で内面からの役作りに生かされた。
 差別がテーマの岩波新書を教材に脚本研究を重ねた後、中川先生は次の課題を打ち出した。
「明日、T村の住民の方々と交流会が持てることになったんや。被差別に生まれ育った人たちの生の声をしっかりと聞いて来て、自分なりに咀嚼したもんを、是非役作りに生かして貰いたいと思うてる」
 中川先生はみんなの顔を見回し、ひとりひとりの心に問いかけた。
 T村は優子が暮らしている被差別だった。

 交流会は和気あいあいと始まった。T村の人たちは、かなり好意的だった。青年達の顔にはホッとするものが見られた。
「今日はよう来て貰うてからに、気兼ねせんと、よろしゅうお願いします」
 年配の区長、田崎はソツのない挨拶で歓迎を見せた。
「今度は、わしらが長年受けて来よる差別の実態を訴えるお芝居を作って貰うて、感謝しとります。ほんまに、みな喜んでますねん。それに中川先生には、昔からわしらのためにいろいろ尽力して頂いとります。今回は、わしらが受けとる理不尽な差別で被る苦しみや悩みを、それにわしらが心の底から世間に言いたい、そのまんまを正確に脚本にして貰うて、そら感謝しとります。ほんまにありがとうおます」
 田崎は頭を深々と下げた。
参集している村の面々は、田崎の言葉に頷き、一斉に合槌を打った。その相好には人の好さが溢れている。中年の女性が誠悟らに、底抜けの笑顔を見せた。
(ぼくらのやってることは、こないにみんなから喜ばれてる。やっぱり、やってよかったんや)
 誠悟は内心嬉しさが隠せなくて、自然に顔が綻んだ。
 いきなり硝子戸が引き開けられた。驚いて会場の目がそっちに向いた。フラーッと入ってきた男がいる。若いのか年がいっているのかはっきりと分からない。どうも様子が普通ではない。酔っぱらっている。それもかなりきこめしている。プーンと酒の匂いが室内に漂った。男は呂律が怪しいのに大声でがなりたてた。
「お前ら、何しに来とんじゃいー!余所もんが来るとこやないわい。ええい!帰れ帰れ、余計なことしくさると承知せえへんど!」
 男は板壁に体をぶつけた。大きな音が部屋の中に響いた。
(つづく)
(平成6年度のじぎく文芸賞受賞作品)


 
 
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