あの一言で得したわが人生
「一人で大変そうやから、アルバイトしたる」
35年前、初めて自分の喫茶店をオープンし、てんてこ舞いしているのを見かねて、そう申し出たのは高校生の彼女。当時わたしが運営していたアマチュア劇団のメンバーだ。
30歳になっても独身を貫き(?)まあうだつの上がらない男を気遣った言葉だった。内心ありがた過ぎる申し出を喜んで受けた。授業を終えた足で駆け付けてくれる彼女は強力な助っ人になった。
おかげでオープンしたての忙しさを切り抜けられたのは間違いない。彼女は短大入学を機に、アルバイトを辞めた。それでも常連客のひとりとして、ちょくちょく来店した。カウンター越しに他愛ない談笑をしているうちに、思い出したように言い出した。
「ひとりもんの男の人って、なんか可哀想で見てられへんやん。よっしゃ、嫁さん候補に友達連れて来たるわな」
店の経営も落ち着いた3年後、短大卒業を前にした彼女は、そう一方的に宣言!そして数人の同級生を伴って順番に来店、次々と紹介してくれたが、初対面の相手が大の苦手のわたし、それが若い女性だと尚更ダメ。会話は続かない。そんな調子でうまくまとまる道理がなかった。
「もう!だらしないんだから。しゃーないなあ。うちが嫁さんになったるわ!」
しびれを切らした彼女は、なんと自ら名乗りをあげた。予想もしていなかった私。驚いた瞬間、(彼女とならうまくいく!)と気づいたのである。
あれから40年近く、子ども4人を授かり、幸せな家庭を築いている。
さて得したのはどっちになるかな?う~ん、どう考えても、やっぱりわたしなんだろうな。