すこし太めのポチャってタイプ。一緒にいると落ち着けるし、その魅力にうっとりしてしまう。人生六十数年、ほんの5度しか恋愛経験はないが、ぽっちゃり彼女は4人。残る一人はスラーっとしたモデルタイプ。この彼女冷たかったなあ!ポッチャリ彼女は、最初が7歳年上、二人目は3歳年下、3人目は10歳年下。そして大本命の4人目は、なんと13歳年下。実は吾輩の人生のパートナーである。子供4人授かり30年以上の結婚生活。やっぱり、ポッチャリタイプが最高の女神なのだ!
「おう1落とすなー!」
その時、境内の指定された位置に屋台を鎮座させた各地区の一人が飛び出した。無言である。釣られて二人、三人、バラバラと駆け出した。東畑崎の神輿の傍らで、終戦と目を合わせた。すかさず周旋が頷いた。
彼らは神輿の下がった側の、担ぎ棒の下に潜り込んだ。東畑崎の男衆の間で担ぎ棒に肩を入れた。下がった側が持ち直した。神輿の担ぎ手の力の均衡が取れた。そして、息を合わせて、担ぎ棒を下からそえた手を差し上げた。
東畑崎の神輿は綺麗な差し上げを、氏子の家族たちが息を詰めて見守る中、本殿前で描いた。
「トントントントン」
「カチカチカチカチカチ」
「ヨヤサ、ヨヤサ1」
神輿は堂々たる差し上げの奉納をやってのけた。
「パチパチパチパチ」
境内に拍手が渦巻いた。誰もかれもの顔が寒気の色に染まっていた。東畑崎の神輿は、「どうだい、おれたちの神輿だー!」
と誇らしげに境内を二周した。練り回る神輿と男衆らに惜しみない拍手が送られ続けた。
龍悟は棒立ちになって、食い入るようにめで追いかけた。あの助っ人に走り出た男衆が動く直前に、彼の足はまさに地を蹴ろうとしたのだ。だが、その足は地に縫い付けられたまま動かなかった。
(オレは東畑崎のもんやない!)
龍悟の心に棲む得体の知れないもう一人が叫んだ。龍悟はそいつに制されてしまった。
「おおけに。ほんまに助かったわ」
龍悟の背後に東畑崎の周旋がいた。助っ人に出た清土の周旋に礼を言っている。あけすけな大声が、龍悟を振り返らせた。
視線の先に東畑崎の老周旋役の赤ら顔がまともにあった。
「いやあ。東畑崎も人が少ないのに、よう頑張ったがな。同じ氏子やのに、放っとけるかい」
清土の周旋も気取りはない。ざっくばらんな口調で、相手をねぎらった。
「おおけに。そない褒められたらくすぐったいがな」
「いやいや、谷間の則夫はんが苦労してまとめたんやろ。ええ若い衆らやないか」」
(ん?…谷間……則夫…?)
老周旋の名前は、谷間則夫!龍悟は愕然となった。記憶に深く刻みつけた名前だった。
(…オ、オヤジ……!)
龍悟の気配に気づいた谷間は龍悟を見た。
「お、あんた、あっちへ行くんかいな。わし、邪魔になっとるがい。こらこらすまんこっちゃ。どうぞとおってくれなはれ」
谷間は身体を斜めに向けて、道を開いてくれた。龍悟は思わずペコリと頭を下げた。奈津実の手を引いて急いで進んだ。谷間の脇を通る際に緊張を覚えた。もう谷間の顔を見直す勇気はなかった。胸がドクンドクンと鼓動を打っている。悟られては困る。
「どないしたの?そない慌てて」
バタバタと追って来た理香子は口を尖らした。
「何かあったの?」
「何もない。ちょっと昔を思い出して興奮してしもうたんや」
「そうだよね。本当にスゴかったわ。、あの奉納するタイコって、ハラハラさせられたよ。男の人たちもスゴイ迫力なんだから」
「うん」
「昔、あれに乗ったんでしょ。そりゃあ気分が高揚するわよね。わかるわ」
「ああ。そうだな……」
龍悟の返事は全く気が入っていない。上の空だから無理もない。龍悟は人混みの中で立ち止まると、目だ無いようにそーっと振り返った。
もう谷間の姿はなかった。どんな顔だったか?くそっ!思い出せない。焦れったさが募る。俺はどうしたらいいんだ!
(続く)
(のじぎく人権文芸賞平成十年度入選作)
その時、境内の指定された位置に屋台を鎮座させた各地区の一人が飛び出した。無言である。釣られて二人、三人、バラバラと駆け出した。東畑崎の神輿の傍らで、終戦と目を合わせた。すかさず周旋が頷いた。
彼らは神輿の下がった側の、担ぎ棒の下に潜り込んだ。東畑崎の男衆の間で担ぎ棒に肩を入れた。下がった側が持ち直した。神輿の担ぎ手の力の均衡が取れた。そして、息を合わせて、担ぎ棒を下からそえた手を差し上げた。
東畑崎の神輿は綺麗な差し上げを、氏子の家族たちが息を詰めて見守る中、本殿前で描いた。
「トントントントン」
「カチカチカチカチカチ」
「ヨヤサ、ヨヤサ1」
神輿は堂々たる差し上げの奉納をやってのけた。
「パチパチパチパチ」
境内に拍手が渦巻いた。誰もかれもの顔が寒気の色に染まっていた。東畑崎の神輿は、「どうだい、おれたちの神輿だー!」
と誇らしげに境内を二周した。練り回る神輿と男衆らに惜しみない拍手が送られ続けた。
龍悟は棒立ちになって、食い入るようにめで追いかけた。あの助っ人に走り出た男衆が動く直前に、彼の足はまさに地を蹴ろうとしたのだ。だが、その足は地に縫い付けられたまま動かなかった。
(オレは東畑崎のもんやない!)
龍悟の心に棲む得体の知れないもう一人が叫んだ。龍悟はそいつに制されてしまった。
「おおけに。ほんまに助かったわ」
龍悟の背後に東畑崎の周旋がいた。助っ人に出た清土の周旋に礼を言っている。あけすけな大声が、龍悟を振り返らせた。
視線の先に東畑崎の老周旋役の赤ら顔がまともにあった。
「いやあ。東畑崎も人が少ないのに、よう頑張ったがな。同じ氏子やのに、放っとけるかい」
清土の周旋も気取りはない。ざっくばらんな口調で、相手をねぎらった。
「おおけに。そない褒められたらくすぐったいがな」
「いやいや、谷間の則夫はんが苦労してまとめたんやろ。ええ若い衆らやないか」」
(ん?…谷間……則夫…?)
老周旋の名前は、谷間則夫!龍悟は愕然となった。記憶に深く刻みつけた名前だった。
(…オ、オヤジ……!)
龍悟の気配に気づいた谷間は龍悟を見た。
「お、あんた、あっちへ行くんかいな。わし、邪魔になっとるがい。こらこらすまんこっちゃ。どうぞとおってくれなはれ」
谷間は身体を斜めに向けて、道を開いてくれた。龍悟は思わずペコリと頭を下げた。奈津実の手を引いて急いで進んだ。谷間の脇を通る際に緊張を覚えた。もう谷間の顔を見直す勇気はなかった。胸がドクンドクンと鼓動を打っている。悟られては困る。
「どないしたの?そない慌てて」
バタバタと追って来た理香子は口を尖らした。
「何かあったの?」
「何もない。ちょっと昔を思い出して興奮してしもうたんや」
「そうだよね。本当にスゴかったわ。、あの奉納するタイコって、ハラハラさせられたよ。男の人たちもスゴイ迫力なんだから」
「うん」
「昔、あれに乗ったんでしょ。そりゃあ気分が高揚するわよね。わかるわ」
「ああ。そうだな……」
龍悟の返事は全く気が入っていない。上の空だから無理もない。龍悟は人混みの中で立ち止まると、目だ無いようにそーっと振り返った。
もう谷間の姿はなかった。どんな顔だったか?くそっ!思い出せない。焦れったさが募る。俺はどうしたらいいんだ!
(続く)
(のじぎく人権文芸賞平成十年度入選作)