こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ひと休み

2016年10月09日 00時43分30秒 | 文芸
ずーっと前から続けている断捨離、
懐かしいものがありすぎて、
なかなか進まない。
積み上げたままになっていた書庫の一角から見つけた「ギフトブック」を見つけて開いた。
また読み返してしまった。
一体いつになったら終活の先がみえるだろうか?
目にしたのは、私の公募デビュー作。
つたない文章だが、単純な思考と行動の持ち主だった自分に、思わず笑ってしまった。
30年以上も前の作品です。

「誕生日おめでとう。私が一番好きな絵本、プレゼントします」
 はにかみながらも、おしゃれなリボンのかけられた絵本の包みを差し出す彼女。保母1年生の彼女にとって、絵本は身近なもののひとつなんでしょう。
 付き合い始めて半年、ひとまわり以上の年齢差もあってなかなか進展しない間柄に、悩みジレンマが一段と深まったころのことでした。
 部屋に戻り、仕事の疲れでボヤッとしながら一人、そっと包みを解きました。
 やや大判の絵本、どこか墨絵を想わせる雰囲気の表紙です。黒いウサギが白いウサギにの頭に小さい黄色の花を飾っている絵。ウサギのまん丸い目、なんともいえない可愛さに惹き込まれます。書名ははズバリ!
『しろいうさぎとくろいうさぎ』
 単純明快なお話で、あまりにもスーッと読めてしまう。最初は物足りませんでした。でも二回目になると、ものすごくしあわせな気分になります。三回目にはなにかちょっぴり悲しくなりました。
 このくろいウサギの姿は当時のわたしそのものではありませんか。話し下手で引っ込み思案。相手に思いが募れば募るほど、思いきった意思表示にちゅうちょしてしまうのです。
 でも、絵本がわたしを励ましてくれています。
 うさぎたちのまん丸な赤い目。しあわせになるって本当は大変なんだよ。待ってたって向こうからやってこない。さあ、思い切って自分の心に素直になろう!行動しょう、いますぐに!と呼びかけてくれます。
 くろいウサギがやっと幸福を手にしたように、心の中をいっぱいにしている熱い思いを素直な言葉にして相手に届けるだけでいいのです。
 4回目を読み終えると、胸はジーンと熱く、もうたまらない気持ちになっていました……!
 それからどうしたのかって?
 もちろん彼女にプロポーズ!彼女は待っていてくれたのです、それを。そして結婚へ!
 現在は二人の子どもたちに恵まれ、家族そろってすこぶる元気でハッピーな生活です。優柔不断なわたしに業を煮やした彼女が、「見習いなさい!」と声なき声を秘めた絵本プレゼントは大成功したのです。
 いまでは子どもたちが、あの運命の絵本『しろいうさぎとくろいうさぎ』を読めよめとせがむ年齢になりました。それを傍らでにこやかに眺めている妻。その眼が、あのしろいウサギの愛くるしい、まん丸で すき通った目に見えてくるのは、私の思い過ごしなのでしょうか?
(昭和62年11月ギフトブック掲載文)

コメント
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