あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

あなたの為

2017-07-10 | 高座
いやいや、どうも、久々の高座でございます。
あたくし、清水亭聖笑と申します。以後お見知りおきを。
いやあ、本当に久しぶりでして、最近とんと出番がございません。
かれこれ半年ぶりですか、何をやっていたんでしょうかね。
そりゃ夏の忙しい時はブログなんぞもアップができないことはあたしも分かっている。
で、夏が終わってヒマになるからそろそろ出番かな、なんて思って待っていたんですが、記事はトーマスのことばかり。
ええ、あのトーマスですね、あたしもよく知っていますよ。
若い時には互いにやんちゃをした仲でしてね。
え?何をしたかって?
そんなこと聞くのは、あーた、野暮ってもんでしょう。
そんなトーマスの話ばかりですからね、あたしの出番なんか待てど暮らせどありゃしない。
とうとう痺れを切らしましてね、啖呵売りにちょこっと出てきたんですよ。
ええ、そうです、食の安全とはというあの話の中の啖呵。
あれはあたしです。
どうにもこうにも我慢ができなくて出てきちゃいました。
なかなかに評判が良かったようでして、こうやって出番をいただきました。
今回も一席、よろしくお付き合いのほどお願いいたします。

つい最近ですが、日本のドラマを見ていたらこのセリフが出てきたんです。
「あなたの為を思って言うのよ」
人がよく言うこの言葉、あたしも子供の頃に言われたことがあります。
そう言えば最近は言われたことがありませんな。
これはどういうシチュエーションで使われる言葉かと申しますと。
親が子供に言う「あなたの為を思って言う」これが一番多いのではないでしょうか。
それから先生が生徒に言う、「君の為を思って言う」これも多そうですね。
あとは上司が部下に言う、「お前の為を思って言う」ありそー。
たまに同僚とかも言いますが、まあほぼ間違いなく、大人が子供に向かって、年配者が若輩者に言う言葉であるわけです。
子供が大人に言うことはありません。
もしいたら・・・イヤ~なガキでしょうな、そいつは。
でも会ってみたいな、そんなガキ。
なんかインテリ眼鏡みたいなのかけて、子供のくせにネクタイなんかしちゃって、でも子供だから半ズボン。
インテリ眼鏡をクイっと持ち上げてその眼鏡がキラリ、そしてこのセリフ。
「もっとちゃんとしなさい。そんな噺家なんてやってないでまともに働きなさい。そんなことではまともな老後を過ごせませんよ。私もこんなことを言いたくないのです。でもあなたの為を思って言うのです」
ああ、言われてみたい~。
いやあ、あたしはMじゃあありませんよ。
Mじゃあないのですが、広い世の中、探せばどこかに居るのかもしれません、そんなガキ。
そんなガキが出世しちゃったりするんでしょうかね。
まちがっても噺家やガイドにはならないでしょう。

それはさておきこの言葉、ほとんどの場合、『上』の人が『下』の人に向かって言います。
年齢が上だったり、立場が上だったり、力関係が上だったり。
そこにあるのは常に上下の関係ですね。
上の人が下の人に、自分の意見を押し付ける決まり文句と言ってもよいでしょう。
結局は人をコントロールしたい、自分の価値観を人に押し付けたい。
言い方を変えれば、自分の価値観の沿って他人を動かしたい。
ニンゲンというのはそういう生き物なんですね。
そしてお決まりの自己正当化、あなたの為。
本当は人をコントロールしたいのですが、それを表に出すと嫌なヤツになっちまうので、「あなたの為」この言葉で善人になれると。
偽善とはこういうことなんです。
ああ、いやだいやだ。

もし本人の為を思うならですよ、その時は放っておけばいい。
こう言うと短絡的な人はすぐに、そんなの可哀相じゃないか、とかそんなのひどい、とか言いますね。
「お前には慈悲というものはないのか、血も涙もないのか、鬼、悪魔、人でなし、バカヤロー、この出番の少ない売れない噺家め!」とまで言われてしまう。
でもねでもねでもね、そもそもその人の身の回りに起こっている事は、その人がした事、もしくは今もしている事が原因なので、外野があれこれ言ってもどうしようもないでしょうに。
仏教の言葉で因果応報などと言いますし、酷い言い方だと自業自得とも言います。
それによって痛い目に会うのなら、それも仕方ない。あきらめてもらいましょう。
例えばお酒を浴びるほど飲んでる人に「あなたの為を思って言うのです。お酒やめなさい」なんて言ってもやめやしない。
あなたの為と言うより、その人が体を壊したら自分にとって何らかの不都合が生じるのかもしれない。
そうやって言ってやめるぐらいなら、とっくにやめていることでしょう。
その結果体を壊したらそれまでだし、ひょっとしたら日に三升も飲んでも体を壊さないかもしれない。
まあ一日に三升も飲んでいたら、体を壊す前に懐が冷たくなるでしょう。
それはそれでまた別の問題ですね。
ですからね、もしも子供が親の望む進路を進まなくてもそれは子供の人生。
暖かく見守ってあげるのが親の役目と、あたしなんぞは思うんです。
あ、でも人の道を踏み外す時には別ですよ。
その時は「あなたの為」なんて甘っちょろいものではなく「ならぬものは、ならぬ」と会津の教えのように言うべきでしょう。

話はころっと変わりますが、あたしもね、こんな話をするつもりじゃなかったんですよ、今回は。
だって久々の出番ですよ。
もっとこう、毒にも薬にもならない、何といいますかね、どうでもいいような話がしたかったんです。
それがですよ、この人、このブログを書いてる人、皆さんご存知ですよね。
そうそう、あのオッサンです。
この人が書いてる途中で「さすがに毒が強いかな」なんて思っちゃったんでしょう。
話の途中で「じゃあ、後は師匠に任そうか」なんて言い始めて、急にあたしの出番が来ちまった。
「旦那、それはないですぜ」なんて言ったんですが聞きやしない、あの男。
ええ、そりゃこちらは慌てましたさ。
笑い話にならないでしょう、こんなネタ。
お気楽に人を笑わすのがあたしの役目なのに、こんな説教じみたこと、その辺の坊さんにでも言わしておけばいいんですよ。
だいたいこんな話をどうやって下げりゃいいんですかい?
そうやって旦那に聞きましたら「それを考えるのがお前の仕事だろう」ですって。
ひどい男だと思いませんか?
あまり愚痴をこぼすと出番が無くなるのでこの辺にして、そろそろお時間です。。
とにもかくにも、『あなたの為を思って』という言葉は本当にあなたの為を思っていない、という事をあなたの為を思って申し上げます。
ありがとうございやした。

どどん、どん、どん。
コメント
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