王様の耳はロバの耳

横浜在住の偏屈爺が世の出来事、時折の事件、日々の話、読書や映画等に感想をもらし心の憂さを晴らす場所です

ナサニエル・フィルブリック 「復讐する海」を読む その1

2007-06-05 00:23:22 | 本を読む
この本の副題は「捕鯨船エセックス号の悲劇」とあります 内容からするとこの方が実に直裁で判り易い気がします
原書は2000年頃の作品の様ですが日本語に翻訳されて2003年12月に集英社から出版されています
原書の題も「IN THE HEART OF THE SEA」ですから判り難さでは同じ程度かもしれません

話しの大筋は:
1820年10月米国の捕鯨船「エセックス号」がマッコウクジラに襲われて沈没してしまいます

悲劇はそこ迄が半分で後半分が残ったおんぼろの捕鯨ボート3隻に20名の船員が乗り込み90余日も漂流しました その間食料が欠乏して死亡した船員の肉を食べながら5名が船に救助されるという物凄い話しです

この話しは「エセックス号」の1等航海士が生還後、自分のメモを元に「ゴーストライター」に依頼して本にして1年後には世にかなり知られる所となっていました
因みに「白鯨」を書いたハーマン・メルヴィルはこの話に想を得て書かれた物です

この小説はその話と違い当時14歳であった「キャビンボーイ(高級船員つきの給仕係り兼雑用夫」のニッカーソンが71歳になってある作家から勧められ「当時の事件を思い出してノートに取ったもの」でした 作家は何故か出版の手配をせず隣人にノートを譲りそのままでした 1984年になってナンタケット歴史協会が限定版で世に出しました その話が骨子になっています

1819年8月12日ニューイングランド沖ナンタケット島を基地にする捕鯨船「エセックス号」が太平洋に鯨を取るべく出港準備中です 「エセックス号」は築15年(本の別の場所では20年とも)長さ26.5メートル、排水量238トンと捕鯨船としては小型でした
(爺注:下手な写真をご覧下さい 大きさは上から見れば25メートルに8コースあるプールほどの大きさです 日本の捕鯨船のキャチャーボート程の大きさでないか これに7.7メートルの「ホエールボート(捕鯨用ボート)」を3艘舷側に、1艘を船尾にぶら下げ、資金に余裕があれば甲板に2艘固定するというほどの物です この船に体当たりした鯨は体長26メートル、重さ80トンとあります)総員21名3人の高級船員と数名の古手を除いては子供の様な18歳以下の青年4名、素人の様な8名の臨時雇いで構成されています
又別な基準で分類すればナンタケット島出身の白人が9名、その他の地区の白人が5名、黒人が7名です この船で階級・人種・高級船員(リーダー)の能力・技術の敵不適、乗組員の団結、今日のアメリカで今も残る縮図がありました 又極限に於ける生き残り、人肉食(カニヴァリズム)にも言及しています

船は出港後3日の15日に船長の判断ミスで突風に襲われ一度は転覆、大切な船体始め帆や装備品を傷つけ、中でも商売道具のホエールボートの2艘を波でさらわれ船尾の一艘は波につぶされた ここでナンタケット島にもどる「決断」がありえたが船長の決断は1等2等航海士の判断で覆された
この後1頭の鯨を捕まえただけで3ヶ月かけて南米大陸南端のホーン岬に着く この難所を1ヶ月掛けて太平洋側に抜けます 船の大きさと人数を思い出してください 実に良い根性していますね
1820年4月頃までチリー沖で捕鯨をして450バーレル(72キロリットル)ほどの鯨油を得る もっと成果を挙げる為船長と1等航海士はチリー沖を北上、ペルー沿岸1600キロ以上沖合いの太平洋に最近発見されたオフショアーグラウンド(沖合いの漁場)に行く事を決する

そのためエクアドルのアタカメスの港で飲用水と食料を補給し960キロ沖合いのガラパゴス島で沢山のゾウガメを捕まえて食料の足しにしようとの計画である
アタカメスでは黒人クルー1名に脱走されてしまう
この事は1艘の捕鯨ボートに6名のクルーが必要なので3艘のボートが出たあとは本船を2名で切り盛りしなければいけない これでは嵐になっても帆も絞れない

それでもガラパゴス諸島につく間、2頭の鯨を仕留め700バーレルの鯨油で船倉を満たし(これは満杯のほぼ半分に達した)、島では40キロもある陸カメを180匹も捕らえ食料に積み込んで漁場を目指した

1820年11月16日エセックス号はガラパゴスから1800キロ以上西を航行していた
このあと4日は鯨を見つけるもボートを壊されて逃げられるばかり
運命の11月20日になった、ガラパゴス諸島の西南2800キロ赤道の南80キロの海域で鯨を追っていた
一等航海士のボートは銛を打ち込むも鯨の尾びれで打たれ壊れかけたボートが更に水漏れする 仲間の2艘が戦っている間、修理の為本船に戻る
すると左船首のそばにある何かに気が付いた 
「それはクジラだった。見た事がないほど大きな雄のマッコウクジラだ。体長約26メートル、80トンはあると思われた」
このクジラが30メートルの距離からスピードを上げ左舷船首に激突した その後右舷船尾に浮上したが、どうやら気絶したらしい
尾は船尾から数メートルの所にある。
本能的にやすを握った1等航海士だが、クジラの尾びれが船の舵の直ぐそばにある事に気づいて躊躇した。 クジラの尾が精巧な舵樋装置を叩き壊す事を恐れた
日ごろ大胆な彼にしては慎重な判断であった

ニッカーソンは記す「もしその後に何が起こるか(彼に)わかっていれば、より少ない被害のほうを選び、舵を壊してもクジラを殺してであろう」
さてクジラは1分ほどで息を吹き返した。クジラは後方に550メートルも流されたが猛スピードで船の船首を(右から左に)横切り数百メートルの所でエセックス号に向き直った。12メートル(横幅)も有る尾を打ち振って前の倍のスピード(6ノット)で左舷船首の怒りの直ぐ下に突っ込んだ。

メリメリとすざまじい音がしてオーク材が裂けた。船はクジラに遮られ行き足を停めた。クジラは尾を上下させ238トンの船を後ろに押し続けた
船室に水が入り後ろに進むどころか下に沈もうとしていた。 クジラは泳ぎ去り2度と姿を現さなかった
  
その1終わり その2に続く
写真:26.5メートル、238トンの帆船「エセックス号」
コメント
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