としょかんライオン
作: ミシェル・ヌードセン
絵: ケビン・ホークス
訳: 福本 友美子
出版社: 岩崎書店
税込価格: \1,680
(本体価格:\1,600)
発行日: 2007年03月
―本の帯のまえがきから―
*としょかんには、だれでもはいれます。
*ライオンでも?
*あるひ、まちのとしょかんに、おおきなライオンがやってきました。
*ある日、町の図書館に、大きなライオンがやってきました。(前書きの原文を引用して漢字を当てています)
しかし、ライオンが図書館に入ってはいけないという決まりはありません。
ライオンが来た時に、どうしたらいいかの決まりもありません。
ライオンは、図書館の中を歩き回り、おとなしく読み聞かせのお話にも聞き入っています。
ライオンがメリウェザー館長に叱られたのは、図書館の中で大きな声で吠えた時でした。
図書館の中では、決まりを守らなくてはならないからです。
ライオンはここでの決まりを守ることを条件に、ここに来てもよいということになりました。
次の日もライオンはやってきました。
感心なことにライオンは、読み聞かせの時間を待っている間にメリウェザー館長のお手伝いもします。
ライオンはもう図書館の中で吠えたりしません。
図書館の仕事の役にも立つし、子供たちの人気者にもなりました。
しかしライオンが図書館にいることに最初から反対していた、図書館員のマクビーさんは面白くありません。
*「だいたい、ライオンにきまりのことが分かるはずないし、図書館にライオンがいるなんて、きいたことがありません。」と言います。
ある日メリウェザー館長は、ライオンに手伝ってもらいながら自分の部屋で図書の整理をしていましたが、踏み台の上で高いところに手を伸ばした時にバランスを失って落ちてしまい、起き上れなくなってしまいました。
メリウェザー館長は、図書館員のマクビーさんを呼びましたが、声が届きません。
仕方がないので、今度はライオンにマクビーさんを連れてきてもらおうとしました。
ライオンは、起き上がれないメリウェザー館長の危機を報せに廊下を走っていきました。
しかしメリウェザー館長は、ライオンの後ろから声をかけます。
*「はしっては いけません」
ライオンは、貸出カウンターに大きな前足をかけて、マクビーさんを見つめたり、メリウェザー館長の部屋の方に鼻を向けて「くぃん、くぃん」と鳴きましたが、マクビーさんは知らん顔です。
ついにライオンは、今までで一番大きな声でマクビーさんに向かって吠えました。
*マクビーさんは、びっくりして いいました。
*「しずかにしなきゃ、いけないんだぞ! きまりをまもってないじゃないか!」
決まりを守れなかったライオンは、うなだれて外へ出て行きました。
マクビーさんは、ライオンが決まりを守らなかったことを告げに。メリウェザーさんのところに向かいました。
*「かんちょう! ライオンが、きまりをまもってません!
きまりをまもってません!」
マクビーさんは、大きな声を出してメリウェザー館長に告げようとします。
しかし、メリウェザーさんは床に倒れていました。
*「たまには、ちゃんとしたわけがあって、きまりをまもれないことだってあるんです。
いくら としょかんのきまりでもね」
メリウェザーさんはそう言うと、マクビーさんにお医者さんを呼んでくれるよう頼みました。
マクビーさんがかけだそうとするとメリウェザーさんが声をかけます。
*「はしっては いけません!」
次の日からライオンは図書館に姿を現さなくなりました。
メリウェザー館長も子供たちも、何だかつまらなそうです。
マクビーさんは、帰るとき自分に何か出来ないかと思って、家にはまっ直ぐ帰らないでライオンを探すことにしました。
近所をぐるっと回ったものの、ライオンを見つけられなかったマクビーさんが図書館に戻って来ると、その前にライオンがびしょ濡れになって座っていました。
マクビーさんがライオンに声をかけます。
*「あのう、ごぞんじないかもしれませんが、としょかんのきまりが かわったんですよ」
*「おおごえで ほえてはいけない。だだし、ちゃんとしたわけがあるときは べつ。 つまりその、けがをしたともだちを たすけようとするときなど、ってことですけどね」
次の日になってライオンが図書館にやってきました。
マクビーさんが、そのことをメリウェザー館長に告げると、メリウェザーさんは廊下にかけだしました。
マクビーさんは、笑いながらメリウェザーさんに声をかけます。
*「はしっては いけません!」
決まりについての絵本と言ってしまえばそれまでですが、メリウェザー館長とマクビーさんとのやり取りは、リアルでもよくありそうなものです。
最初のところでマクビーさんが、ライオンが図書館にいることがおかしいと反対しているのに対して、メリウェザー館長は決まりを盾にしてライオンが図書館にいることを許しました。
それでマクビーさんは、逆に決まりを盾にライオンを叱りましたが、彼は元々ライオンが図書館にいるのは相応しくないと思っていましたので、(自分が図書館の決まりを破ってまで)大声を出してメリウェザーさんに訴えました。
一方メリウェザーさんは、この一件を踏まえ、決まりをまもらなくてもよい例外事項として、「ちゃんとしたわけがあるとき」と決めましたが、このようなダブルスタンダードはどこにでもあるものでしょう。
作者は、純粋な気持ちからは理不尽とも受け取れるダブルスタンダードの存在を、人間と一緒に生活するライオンの行動を通して、まだ幼い読者に伝えたかったのかも知れません。
しかしこの作品に登場するライオンは、人間の生活に溶け込むことだけを除けば、実に威風堂々としていますが、そのライオンの堂々としたところが、決まりを守れなかったことでマクビーさんに叱られ、メリウェザー館長の助けを呼ぶことも出来なくて、意気消沈したずぶ濡れの姿との落差を大きくします。
色エンピツと水彩を組み合わせたような手法で、リアルな動きの多いコミックスのような絵の雰囲気は、今まで手にした絵本とは随分違い最初は少し違和感がありましたが、繰り返し読むうちにこの絵こそがこの作品には一番相応しいと思うようになりました。
何故ならば、ライオンの純粋で誰にでも優しい心は、静的な表現を主体とする一般的な絵本の様式に収まり切らないものだと思うからです。
作: ミシェル・ヌードセン
絵: ケビン・ホークス
訳: 福本 友美子
出版社: 岩崎書店
税込価格: \1,680
(本体価格:\1,600)
発行日: 2007年03月
―本の帯のまえがきから―
*としょかんには、だれでもはいれます。
*ライオンでも?
*あるひ、まちのとしょかんに、おおきなライオンがやってきました。
*ある日、町の図書館に、大きなライオンがやってきました。(前書きの原文を引用して漢字を当てています)
しかし、ライオンが図書館に入ってはいけないという決まりはありません。
ライオンが来た時に、どうしたらいいかの決まりもありません。
ライオンは、図書館の中を歩き回り、おとなしく読み聞かせのお話にも聞き入っています。
ライオンがメリウェザー館長に叱られたのは、図書館の中で大きな声で吠えた時でした。
図書館の中では、決まりを守らなくてはならないからです。
ライオンはここでの決まりを守ることを条件に、ここに来てもよいということになりました。
次の日もライオンはやってきました。
感心なことにライオンは、読み聞かせの時間を待っている間にメリウェザー館長のお手伝いもします。
ライオンはもう図書館の中で吠えたりしません。
図書館の仕事の役にも立つし、子供たちの人気者にもなりました。
しかしライオンが図書館にいることに最初から反対していた、図書館員のマクビーさんは面白くありません。
*「だいたい、ライオンにきまりのことが分かるはずないし、図書館にライオンがいるなんて、きいたことがありません。」と言います。
ある日メリウェザー館長は、ライオンに手伝ってもらいながら自分の部屋で図書の整理をしていましたが、踏み台の上で高いところに手を伸ばした時にバランスを失って落ちてしまい、起き上れなくなってしまいました。
メリウェザー館長は、図書館員のマクビーさんを呼びましたが、声が届きません。
仕方がないので、今度はライオンにマクビーさんを連れてきてもらおうとしました。
ライオンは、起き上がれないメリウェザー館長の危機を報せに廊下を走っていきました。
しかしメリウェザー館長は、ライオンの後ろから声をかけます。
*「はしっては いけません」
ライオンは、貸出カウンターに大きな前足をかけて、マクビーさんを見つめたり、メリウェザー館長の部屋の方に鼻を向けて「くぃん、くぃん」と鳴きましたが、マクビーさんは知らん顔です。
ついにライオンは、今までで一番大きな声でマクビーさんに向かって吠えました。
*マクビーさんは、びっくりして いいました。
*「しずかにしなきゃ、いけないんだぞ! きまりをまもってないじゃないか!」
決まりを守れなかったライオンは、うなだれて外へ出て行きました。
マクビーさんは、ライオンが決まりを守らなかったことを告げに。メリウェザーさんのところに向かいました。
*「かんちょう! ライオンが、きまりをまもってません!
きまりをまもってません!」
マクビーさんは、大きな声を出してメリウェザー館長に告げようとします。
しかし、メリウェザーさんは床に倒れていました。
*「たまには、ちゃんとしたわけがあって、きまりをまもれないことだってあるんです。
いくら としょかんのきまりでもね」
メリウェザーさんはそう言うと、マクビーさんにお医者さんを呼んでくれるよう頼みました。
マクビーさんがかけだそうとするとメリウェザーさんが声をかけます。
*「はしっては いけません!」
次の日からライオンは図書館に姿を現さなくなりました。
メリウェザー館長も子供たちも、何だかつまらなそうです。
マクビーさんは、帰るとき自分に何か出来ないかと思って、家にはまっ直ぐ帰らないでライオンを探すことにしました。
近所をぐるっと回ったものの、ライオンを見つけられなかったマクビーさんが図書館に戻って来ると、その前にライオンがびしょ濡れになって座っていました。
マクビーさんがライオンに声をかけます。
*「あのう、ごぞんじないかもしれませんが、としょかんのきまりが かわったんですよ」
*「おおごえで ほえてはいけない。だだし、ちゃんとしたわけがあるときは べつ。 つまりその、けがをしたともだちを たすけようとするときなど、ってことですけどね」
次の日になってライオンが図書館にやってきました。
マクビーさんが、そのことをメリウェザー館長に告げると、メリウェザーさんは廊下にかけだしました。
マクビーさんは、笑いながらメリウェザーさんに声をかけます。
*「はしっては いけません!」
決まりについての絵本と言ってしまえばそれまでですが、メリウェザー館長とマクビーさんとのやり取りは、リアルでもよくありそうなものです。
最初のところでマクビーさんが、ライオンが図書館にいることがおかしいと反対しているのに対して、メリウェザー館長は決まりを盾にしてライオンが図書館にいることを許しました。
それでマクビーさんは、逆に決まりを盾にライオンを叱りましたが、彼は元々ライオンが図書館にいるのは相応しくないと思っていましたので、(自分が図書館の決まりを破ってまで)大声を出してメリウェザーさんに訴えました。
一方メリウェザーさんは、この一件を踏まえ、決まりをまもらなくてもよい例外事項として、「ちゃんとしたわけがあるとき」と決めましたが、このようなダブルスタンダードはどこにでもあるものでしょう。
作者は、純粋な気持ちからは理不尽とも受け取れるダブルスタンダードの存在を、人間と一緒に生活するライオンの行動を通して、まだ幼い読者に伝えたかったのかも知れません。
しかしこの作品に登場するライオンは、人間の生活に溶け込むことだけを除けば、実に威風堂々としていますが、そのライオンの堂々としたところが、決まりを守れなかったことでマクビーさんに叱られ、メリウェザー館長の助けを呼ぶことも出来なくて、意気消沈したずぶ濡れの姿との落差を大きくします。
色エンピツと水彩を組み合わせたような手法で、リアルな動きの多いコミックスのような絵の雰囲気は、今まで手にした絵本とは随分違い最初は少し違和感がありましたが、繰り返し読むうちにこの絵こそがこの作品には一番相応しいと思うようになりました。
何故ならば、ライオンの純粋で誰にでも優しい心は、静的な表現を主体とする一般的な絵本の様式に収まり切らないものだと思うからです。