ヒロシの日記

たくさんの人たちの幸福を願いつつ、常に自然な生き方を望む私の日記です。

ルリユール おじさん

2009-03-14 18:18:04 | 日記
ルリユール おじさん
作・絵: いせひでこ
出版社: 理論社
税込価格: 1,680
(本体価格:1,600)
発行日: 2006年09月



物語は、歴史を感じさせるアパートメントが立ち並ぶ、冬の朝のパリから始まりました。

少女ソフィーは、壊れてしまった自分の大切な植物図鑑を抱え、その本を修理してくれる人を探して、パリの街中を歩き回ります。

街頭に店を広げる本屋は、そんなソフィーに

「*そんなにだいじな本なら、ルリユールのところに行ってごらん」と声を掛けてくれました。

ルリユール(RELIEUR)とは、製本と装丁を一人で手掛ける職人のことです。
 
ソフィーが街に飛び出した頃、年老いたルリユールは仕事場に向かうところでした。

ソフィーはルリユールを探しながら、又一方で老人は昼食のためのパンを手に入れながら、それぞれ別の表通りを歩いていましたが、二人はやっと彼の仕事場の前で出遭います。
仕事場に入った彼は、窓の外からじっと中をうかがっていたソフィーに気づき、彼女を中に招き入れました。

ルリユールの仕事場は、ソフィーにとって珍しいものばかりでした。
製本に使う紙や布などの材料が溢れかえり、製本のための大きな押し切り台や紙を本の形にして締め付けるための道具が置いてある様子に、ソフィーの興味は尽きません。

ルリユール:*こんなになるまで、よく読んだねえ。ようし、なんとかしてあげよう。
ソフィー :*木がすきなの。木のことならなんでものっているのよ。
ルリユール:*では、まず一度本をばらばらにしよう、とじなおすために。
ルリユール:*「ルリユール」ということばには「もう一度つなげる」という意味もあるんだよ。
ソフィー :*おじさん、アカシアの木すき?
ルリユール:*この表紙はじゅうぶんにはたらいたね、あたらしくつくろう。
ソフィー :*アカシアのハチミツっておいしいのよ。

老人は作業にかかりました。
まずバラバラになった本の紙をそろえて、大きさを整えます。
紙を糸でかがった次は、本の背側になる面をのりで固め、丸みをつけるためのハンマーで叩きます。
表紙は新しくすることにして、彼はごちゃごちゃになった部屋の片隅から表紙の材料にするカルトン(ボール紙)を取り出しました。
カルトンは、大きな押し切り台で表紙の大きさに整え、穴を開けてから糸を通します。
通した糸は、表紙の裏に回して目立たないように先をつぶし、カルトンの内側に貼り付けてその上から裏紙を貼りました。
表紙がそらないように、裏表紙の内側にも裏紙を貼り、本の背になる部分にモスリン(細かい網目の布)を貼ります。
貼ったモスリンの上に更に背の紙を二回貼り、本の形にしたままプレスをして一日乾かします。
その後に羊皮や布紙で全体を覆いますが、今日はプレスをしたままです。

本をプレス機にかけると今度は表紙にする革と紙を選びます。
ソフィーは、植物図鑑に相応しい森の色の革を選びました。
老人は、その革が紙の薄さになるくらいまで、裏側からていねいにヘラで削っていきます。

ヘラを動かす老人の手は、まるで木のこぶのようでした。

今日の作業はここまでです。
お腹がへった二人は、老人が朝買ったフランスパンを持って公園に行くことにしました。

公園までの道すがら、老人は自分の身の上話を始めます。

彼の父親もルリユールで、仕事場に掛っている肖像画の人物でした。
ルリユールは、400年も続いてきた仕事なのです。
公園にはルリユールの仕事と同じくらいの年月を生き抜いた冬枯れのアカシアの大木が、二人を見おろしていました。

二人は、帰り道の途中で別れます。
ソフィーが名乗ったのは、この時が初めてでしたが、老人は名乗らずに自分のことを「*ルリユールおじさんでいい。」と言いました。

一人になった老人は、仕事場の父のことを思い出しました。
父も彼と同じように木のこぶのような手をしていたのです。
木のこぶのような手であっても、デリケートな手で素晴らしい出来栄えの仕事を残した職人でした。

父は言いました。
*本には大事な知識や物語や人生や歴史がいっぱい詰まっている。
*それらをわすれないように、未来にむかって伝えていくのがルリユールの仕事なんだ。

60以上ある工程をひとりで手がけ、最後に本の背にタイトルを金箔で押すことまで出来るのが、一人前のルリユールなのです。
子どもの頃の彼にとって、彼の父の手は「魔法の手」でした。
彼は、自分の父に近づくことが目標でもありました。

さて、老人とソフィーが出会ったあの日から、いく日経ったでしょうか。
アカシアは春の芽吹きが始まりました。もう本が出来上がっている頃です。

ソフィーが路地をかけ足でやってきます。手には種から芽生えた小さなアカシアの苗の鉢を持っています。

ルリユールの仕事場の窓辺には、ソフィーの植物図鑑が新しくなって置いてありました。
その本には、新しいタイトルで「*ARBRES de SOPHIE」―*ソフィーの木たち。と金文字で付けられ、ソフィーの書いたアカシアの絵が表紙になっていました。

ソフィーは、新しくなった図鑑を手にしてまた新しい知識の扉を開きます。
老人は、ソフィーからプレゼントされたアカシアの鉢を受け取ったまま眠ってしまいました。


年月が経って、ソフィーは植物学の研究者になりましたが、老人が作り直した本は二度とこわれることはありませんでした。

彼女はそれを報告するかのように、あの時の公園のアカシアの木の前で本を開いています。



ここからがレビューです。


子どもにおいては、体のみならず知識欲旺盛なところも育ち盛りと言うべきなのでしょう。
この絵本は、そんな一人の少女と伝統的技術を伝える熟練した職人との交流のお話です。
技術は、それによる恩恵を求める相手との関わりの中でより高度なものとなり、更には次の世代へと受け継がれていきます。

この本は、そうした技術の本質を絵本にしたものであり、その技術への尊敬の念を抱かせるとともに、熟練の技術との出会いを通した子供の成長について描かれたものです。

この絵本では製本に関して描かれていますが、素晴らしい技術との出会いには感動があります。
それは技術を伝承する側としての感動でもあり、一方では技術の恩恵を受ける側としての感動です。

私たちは、その多くが技術の恩恵を受け取る側ですが、一方で仕事や趣味などを通して技術を伝える側にもなります。
私たちの全ての技術との出会いが、ソフィーとルリユールおじさんのようなものであったなら、私たちの人生はどれほど豊かなものになるでしょうか。

作者の「いせ ひでこ」さんについては、水彩の絵の美しさや主人公であるソフィーの素直さと無邪気さに魅了されますが、そればかりでなくルリユールの仕事の描き方で示されるように、熟練した技術と出会う感動を伝えるに相応しい卓越した表現力をお持ちの画家です。
彼女の描くパリの街の雰囲気や工房の中の様子、製本の工程や技術を紹介するシーンは、実際に現地に住んでルリユールの工房に通い詰めていたからこそのものでしょう。

最初のソフィーが彼と出会うまでのシーンで、二人はそれぞれに違う場所にいて、絵本の見開きの左と右に分かれていましたが、見開きの8枚目になってやっと彼の仕事場の前で出遭います。
このへんの描き方も、人との出会いが実に運命的でドラマチックなものであることを示唆していて、絵本のテーマをより深いものにしてくれます。
「いせ ひでこ」さんの先品は他にもありますので、また次の機会にご紹介したいと思います。


最後になりましたが、ルリユールについての説明サイトをひとつだけ紹介します
後はご自身で調べて下さい。


どうか、このレビューが、あなたにとって感動的な技術との出会いにつながるきっかけとなり、それがあなたの新しい世界への扉を開くことになりますように。
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大風の一日でした

2009-03-14 14:36:45 | 日記
強い風は昨夜からでしたが、今日の昼近い頃の方が強烈でした。

南からの風に傾くソラマメ
・シートが煽られてしまったコーンのポリポット

・風で折れて飛んで来た枯れ松の枝
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