人生チャレンジ20000km~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

<再掲>JR北海道列車脱線・炎上事故の意味するもの

2013-05-06 22:31:46 | 鉄道・公共交通/安全問題
(この記事は、当ブログ管理人が2011年7月に季刊誌に発表したものです。2年近く前に執筆したものですが、最近、JR北海道で安全に関するトラブルが再び相次いでいることをふまえ、当ブログにも掲載することとしました。なお、掲載に当たり、文字化けのおそれがある丸数字のみ、カッコ付き数字に改めました。)


 北海道占冠(しむかっぷ)村のJR北海道・石勝(せきしょう)線のトンネル内で今年五月、走行中の特急列車「スーパーおおぞら一四号」が脱線・炎上した事故は、乗客四〇人が病院に搬送される重大事故となった。幸いにして死者はなかったが、トンネル内の列車火災としては戦後最悪の死者三〇名を出した北陸トンネル急行「きたぐに」列車火災(一九七二年)を上回る惨事になりかねなかった。

 犠牲者がゼロですんだのは、(1)長さ一三,八七〇メートルという長大トンネルのほぼ中央で火災が発生した「きたぐに」に対し、今回の事故が起きたトンネルが長さ六八五メートルと短かったため乗客の脱出が容易であったこと、(2)「きたぐに」の火災では食堂車の燃料(木炭)が火元となって有害な一酸化炭素が発生したのに対し、今回はそのような事態が起こらなかったこと…などいくつかの幸運が重なったこともある。しかし、最大の要因は車掌の制止を振り切り、機転を利かせて自主的に脱出した乗客がいたことだ。脱出した乗客は「JRから避難誘導はなく、自分で逃げなければ死んでいた」という。

 ●利益優先の高速化と酷使による車両老朽化

 今回の事故は推進軸の破損から始まったとみられている。推進軸とはエンジンやモーターなどの動力を車輪に伝えるきわめて重要な部品であり、細長い形状をしている。自動車でいえばシャフトに当たるものだが、鉄道車両の中でも常に強い力がかかり続ける部品であるため、高い強度を持つように設計されている。それでも、鉄道車両の中で最も酷使される部品であり、現在でも時々、破損事故が起きている。

 運輸安全委員会による事故調査の結果はまだ発表されていないが、推進軸が破損した後、その一部が車輪とレールの間に入り込み、その上を通った車輪が乗り上げて脱線が起きたとみられている。火災に関しては、破損した部品の一部がエンジンか燃料タンクを傷つけたことが発生原因であろう。

 今回事故を起こした車両はキハ二八三系と呼ばれ、民営化後の一九九六年から登場したものである。登場から今年で十五年目だ。鉄道ではそれほど古い部類には入らないが、この車両がよく事故を起こしている。二〇〇九年二月、函館本線で起きたブレーキ部品脱落事故もこの形式の車両である。

 在来線車両の場合、四〇~五〇年も現役で活躍するものもあるが、こと北海道に関する限り、在来線車両なのだから本州と同じように長期の使用に耐えるという考え方をしてはならない。新幹線がなく、札幌都市圏を除けばほとんどの路線が非電化区間(=ディーゼル運転)である北海道では、気動車特急が都市間輸送の重要な役目を果たしている。北海道の特急気動車には、新幹線と同じように一回あたりの走行距離が長く、しかも高速運転が多いという特徴がある(特急「スーパーおおぞら」が走る札幌~釧路間の営業キロは三四八・五キロメートルあり、東京~名古屋間に匹敵する)。こうした使用条件の下では車両の劣化も新幹線車両並みのスピードで進行していくのである。一九八五年に登場した東海道新幹線一〇〇系が二〇〇五年には東海道区間の「ひかり」運用から引退したことを考えると、北海道の特急用気動車も概ね二〇年が限界といえる。

 JR北海道の無謀ともいうべき高速化も指摘しておく必要がある。あまり知られていないが、鉄道車両のディーゼルエンジンは自動車のエンジンのように、走行中ずっと動力をかけ続けるような使用を想定していない。むしろ、規定速度に達したら動力をかけるのをやめて慣性によって走行し、速度が落ちてきたらまた動力をかけるという運転形態のほうが一般的である。

 そのような中、JR北海道の特急気動車は、走行中ほとんど動力をかけたまま最高速度を維持するという運転形態が採られている。JR北海道では六月にもエンジンから煙が上がる事故があったが、こうした想定外の酷使と無関係ではない。

 背景には、北海道内輸送を巡る航空との競争がある。一〇七人の命を奪ったJR西日本と同じ利益優先、安全軽視の暴走はJR北海道でも顕著である。

 ●消えた座席…不十分な安全基準

 ところで、全焼後の車両の写真をメディア報道で見たとき筆者は強い衝撃を受けた。車内にあったはずの座席が完全に焼け落ち、姿を消していたからである。

 筆者が二〇〇八年、情報公開制度を利用して入手した「鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準」(国土交通省鉄道局長通達)を見直してみた。驚くことに、新幹線と地下鉄以外の車両では座席の表地にこそ難燃性の材料の使用を義務づけているが、詰め物にその義務はない。多くの乗客の命を預かる鉄道車両の安全基準がこんなものでいいはずがない。

 新幹線や地下鉄以外の路線でも、近年開業した新線を中心に長大トンネルが次第に増えてきている。全ての鉄道車両で座席の表地も詰め物も難燃性の材料使用を義務づける方向で安全基準の改正が必要である。

 ●安全闘争に取り組まない労働組合

 安全を厳しく監視すべき労働組合はどうしているのか。JR北海道労働組合は事故から一か月近く経った六月二一日になってようやく「安全確保に向けたアピール」を出し、五月三〇日に「原因究明を求める会社への申し入れ」を行ったことを公表した。しかし、列車は日々走っているのだ。労働組合としてこの動きはあまりに遅い。JR東日本や西日本の国労組合員のように、会社の安全対策を現場から問い直す試みもほとんど見られない。労働組合も機能不全だ。

 二〇〇九年一月、江差線で下請業者の信号配線ミスにより、赤が表示されるべきところに黄が表示され、あわや追突という事態が起きた。同年一二月には富良野駅で除雪車と快速列車の衝突事故も起きている。これらの事故の深刻なところは、通常のようなフェイルセーフ(事故の際、最も安全な措置がとられること)の作動による事故ではなく、フェイルセーフ欠落が招いた事故であるということだ。これは尼崎事故直前のJR西日本と酷似している。このままではいずれ死亡事故の発生は避けられない。

 筆者は今この原稿を福島で書いている。福島では母親や子どもが避難の権利を求めて闘っているが、現状では自主避難に経済的・社会的補償はない。原発もJRもグローバル資本が引き起こした事故で避難しなければ命も危ないのに、避難命令はどこからも来ず、避難は決断も実行も全て自己責任だ。こんな呆れた「自己責任」社会はいったいいつまで続くのか。

(2011年7月)

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