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JR北海道で再び相次ぐトラブル~背景に規制緩和、マニュアル違反のずさん検査

2013-05-07 23:37:02 | 鉄道・公共交通/安全問題
このところ、JR北海道で再び安全に関するトラブルが目立ってきている。4月8日、特急「北斗20号」でエンジンから出火するトラブルが起きたのに続き、5月5日には特急「スーパーカムイ」で床下から出火、大型連休の繁忙期輸送を直撃した。特に、「スーパーカムイ」はこれまでになかった新しい形のトラブルとして注視する必要がある。過去のJR北海道の車両トラブルがほぼすべて特急用気動車であったのに対し、「スーパーカムイ」は電車であり、しかも床下から出火した789系1000番台車は2007年の登場からわずか5年の若い車両だからである。常識的に考えて、物持ちの良いこの業界で登場から5年でのトラブルなどあり得ない。

JR北海道に関しては、トラブル全国の倍 車両不具合多く(毎日)という報道も行われており、まさに異常事態というべきである。

<参考資料1>4月8日発生 特急北斗20号のエンジンが破損した事象について(JR北海道プレスリリース)

<参考資料2>特急スーパーカムイ6号の床下から出火したトラブルについて(JR北海道プレスリリース)

4月にエンジントラブルを起こした特急北斗の車両は、過去に発煙が発生した「スーパー北斗」(キハ283系)とは異なり、キハ183系である。国鉄時代に開発されたキハ183系と同系列で、JR北海道では1989年から製造が始まっている。古い車両ではあるが、これよりも古いキハ181系が、つい最近まで山陰地方などで問題なく使用されていた事実から考えれば「古い」がトラブルの理由とは考えにくい。

先日の「スーパーカムイ」に関しても、寒冷地仕様で車軸に凍結防止用のゴム製カバーを装着していたことが原因とする報道もあるが、同じ寒冷地であるJR東日本(東北地区)の車両でもこのような事例は起きていない。やはり、これを原因とするには材料不足といえる。

当ブログと安全問題研究会は、こうした一連のトラブルが続いている原因として、北海道特有の鉄道事情があるのではないかと考えている。通常の在来線車両の場合、40~50年も現役で活躍するものもあるが、こと北海道に関する限り、同じような考え方をしてはならない。なぜなら、北海道の特急気動車には、新幹線と同じように1回あたりの走行距離が長く、しかも高速運転が多いという特徴があるからである(たとえば、2011年に石勝線トンネル内で火災を起こした特急「スーパーおおぞら」が走る札幌~釧路間の営業キロは348.5キロメートルもあり、東京~名古屋間にほぼ匹敵する)。こうした使用条件の下では車両の劣化も新幹線車両並みのスピードで進行していく。1985年に登場した東海道新幹線100系が2005年には東海道区間の「ひかり」運用から引退したことを考えると、北海道の特急用気動車も概ね20年程度が限界といえるのではないだろうか。

特急「北斗20号」のトラブルについては、4月17日付「北海道新聞」が興味深い報道をしている。「JR特急出火・交換間隔短縮に甘さ~同一部品、昨年21万キロで破損 『25万キロ』再発防げず」との見出しがついたその記事は、JR北海道が定めている基準では事故を防止できない、として以下のように伝えている。「…特急北斗の出火トラブルに関連し、昨年9月にも今回と同じ走行距離21万キロで同じエンジン部品が破損していたにもかかわらず、JR北海道がその後の再発防止策で、部品交換の基準を『25万キロ』としていたことが16日、分かった。基準はそれ以前の『50万キロ』の半分になったが、実際に部品の破損が起きた距離よりは長く、結果的にトラブルの再発を防げなかった」

JR北海道は、2012年9月にトラブルが起きるまで、なんと走行距離が50万キロにならなければ部品の交換をしなくて良いことにしていたのである。さすがにこれでは安全確保ができないと見て基準を半分にしたが、部品劣化のスピードが早く、それでも追いつかなかったわけだ。

もちろん、甘すぎて無意味とまではいわないが「ないよりはマシ」程度の基準しか定めていなかったJR北海道に対し「安全意識が足りない」と批判することは簡単だし、それは必要かつ正当な批判である。しかし、当ブログと安全問題研究会は、もうひとつ重大な事実を指摘しなければならないと考えている。それは国土交通省の責任である。

国土交通省は、内燃動車(いわゆる気動車のこと)の検査周期について重大な規制緩和を行っている。「鉄道運転規則の一部を改正する省令の制定について」と題された平成13(2001)年9月12日付の発表文には次のように記されている…「従来より、検査周期については、安全規制の合理化の観点から鉄道車両の各装置の耐久性の向上等を踏まえ、延伸を行ってきているところである。今般、鉄道車両のうち内燃動車及び内燃機関車について走行試験等の結果より、検査周期の延伸に対する安全性が確認されたことから所要の改正を行うこととする」

そして、内燃動車の検査周期(エンジン、車輪、ブレーキなど重要な装置の検査)については次のとおり緩和し、2001年9月11日から実施している。(参考資料

(改正前)「3年を超えない期間(ただし、新車は使用開始から4年を超えない期間)または走行距離が25万キロメートルを超えない期間のいずれか短い方」に1回

(改正後)「4年を超えない期間または走行距離が50万キロメートルを超えない期間(ただし、予燃焼室式の内燃機関又はクラッチが乾式である変速機を有するものについては、25万キロメートルを超えない期間)のいずれか短い方」に1回

JR北海道の「ないよりはマシ」程度の安全基準は、国土交通省が「お墨付き」を与えたものだったのだ。JR北海道が昨年9月のトラブル後、走行距離50万キロから25万キロに部品の交換周期を改正したとしても、結局は国土交通省による規制緩和前に戻しただけに過ぎないのである。

(厳密に言えば、国土交通省の規制は検査周期に関するもの、JR北海道の基準は部品交換の周期に関するものだから、その意味は微妙に異なるが、検査が50万キロに1回しか行われなければ、大規模な修繕のチャンスも50万キロに1回しか来ないから、実態としては同じことである)

昨年、そして今回の「北斗20号」のトラブルは走行距離21万キロで発生しているから、仮にこの規制緩和がなかったとしても防ぎ得なかったことになる。しかし、当ブログと安全問題研究会は、そのことをもって国土交通省を「免罪」にする気はない。規制緩和は鉄道事業者を心理的に弛緩させる効果を持つからである。この規制緩和がなければ、鉄道事業者はもっと緊張感を持って安全維持に努め、その結果、今回のトラブルは起きずにすんだかもしれないのだ。

JR北海道の検査もきわめてずさんなものだった。昨年秋、JR北海道に対し、会計検査院が行った会計検査(注)により、交番検査を自社のマニュアル通りに行っていなかった例、検査記録の管理が車両基地ごとにまちまちなため、車両の保守管理に支障を来している例があることなどが指摘されている。会計検査院は、こうした事態を看過できないとして、JR北海道に対し、「是正改善の処置」を行うよう求めている。

<参考資料3>平成23年度決算検査報告~団体別の検査結果

●北海道旅客鉄道株式会社
鉄道車両の定期検査及び検査修繕において、実施基準等に基づく実施と検査記録の適切な整備を図るとともに、車両システムを車両の保守管理に有効に活用することができるよう改善の処置を要求し、請負契約による車両部品の検査修繕の結果が適切に記録されて報告されるよう是正改善の処置を求めたもの

同様のずさんな車両検査体制はJR四国にも見られるとして、会計検査院はJR四国に対しても「是正改善の処置」を求めている。

<参考資料4>平成23年度決算検査報告~団体別の検査結果

●四国旅客鉄道株式会社
請負契約による鉄道車両の定期検査において、実施基準等に基づいて実施され、検査の結果が適切に記録されて報告されるよう是正改善の処置を求めたもの

JR北海道は、特急「北斗20号」のトラブルを受け、部品の交換周期を当面、6ヶ月に1度とすることを決めた。これにより、走行距離で見れば10万キロ程度に1回の頻度で部品交換が行われることになる。国の基準より大幅に厳しい「自主規制」を行うことになるが、ここまでトラブルが続発した以上、やむを得ないと思う。

会計検査院からの指摘もふまえ、JR北海道にはより抜本的なトラブル防止対策を強く望む。

注)民間企業であるJRに対し、なぜ会計検査院が検査に入るのか、と疑問を持つ読者もいるかもしれない。会計検査院法23条により、「国が資本金を出資したものが更に出資しているものの会計」について、必要があれば会計検査院が検査を行うことができる旨が定められている。JR三島会社(北海道・四国・九州)の株式は、現在、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構。旧・国鉄清算事業団)が全て保有しており、鉄道・運輸機構には国が出資しているから、JR三島会社はこの条件に該当する。これに対し、本州3社は全株式が民間に放出された純粋な民間企業であり、会計検査院が検査に入ることはできない。

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