戦国大名の領地経営も楽じゃないーー本書はそんな苦労を経済的見地から具体的に述べている。
16世紀中頃から貨幣経済が成り立っていたが、次第に貨幣不足の状況となり、悪銭、いわゆる疲弊した硬貨や模造品が領内に多く出回り、戦国大名を大いに悩ませた。
戦国大名は苦肉の策として良銭と悪銭の扱い、例えば良銭1に対して悪銭3とする決め事、どうしても貨幣が足りない時は米を代用するなどしてその場をしのいでいく。
戦国大名の収入は何か。真っ先に思い浮かぶのは年貢としての米だ。
しかしながら米を直接徴収しない大名も少なからず存在したという。
小田原北条氏は、主に貨幣である銭を徴収するシステムを構築した。
確かに貨幣であれば、豊作・凶作による価格変動の影響は受けにくく、米以外の物資を入手する際には、米のように一旦売却して銭に変える手間を省くことができた。
米、銭も経済活動を行うための必要なツールだが、金、銀なども重要な役割を担った。
戦に必要な高価な鉄砲、武具、大量の兵糧の買い入れのために、銀や金は戦国大名の軍資金とするために領国内の金山、銀山などの鉱山開発に血眼になっている。
西国の石見銀山、生野銀山、佐渡島、甲斐国、駿河国の金、などなど鉱山開発ブームが起こっている。
戦にはどれほどの経費がかかるのか、兵役負担を担うのは誰? 兵に日当は出るの?
朝廷への貢ぎ品の相場ってどのくらい? 官位を役職を得るのも賄賂次第、この時代は賄賂は正当な手段。
伊達氏の朝廷への貢物攻勢、貢物の内訳は? 金山の威力?
非足利一門の伊達晴宗は奥州探題に任命されたのか?
朝廷へ権威を得るために積極的に働きかけた大名は? 朝廷への貢物で恥をかいた織田信長、その内容は?
戦国大名は領地内でかける徴収(税)にはどんな種類があって、相場はどれくらい?
米の相場ってどうやって決まるの?
以上、ほんの一例を挙げたが、戦国大名がどのようにして領地経営をしていったのか、経済学的ノウハウを述べながら現実感あふれる内容でとてもおもしろかった。
本書の巻末に掲載されている参考文献は、個人的に読んでみたい書物・論文が多くあった。
さすがに史料となると、敷居が高くて歴史学の素地がない自分には頭が追いつかないだろう。
平安時代の貴族や鎌倉時代の武士、戦国時代の武士などの領国統治や生活の実態にはとても興味があります。
多分、大河ドラマなんかとは結構違う部分も多いんだろうな・・って思います。
日常生活でどんな言葉を話していたのかも知りたいですね。
この時代の大名の収入って年貢だけかと思ってましたが、お金で徴収する場合もあったんですね(◎_◎;)
これは知りませんでした。
>戦国時代の武士などの領国統治や生活の実態<
農民が疲弊して逃亡してしまうと、領地の経営が成り立たなくなり、戦さも出来なくなってしまいます。
そう言う意味で、飢饉の時は徳政令(借金をチャラにする)を出したり、年貢を減らしたりして大名側もかなり気を遣っています。
大河ドラマでは、派手な戦闘シーンがメインとなるのは仕方ありませんが、実際は戦闘兵より兵站を担う農民や家来の方が人数は多いようです。
日当は出るけど食糧は自腹か貸し付ける!なんてこともあるようで、大名もやりくりは結構大変だったみたいですよ。
>hajimeさん、こういう本も読まれるんですね。<
はい、経済学部卒なので(笑)。
年貢は米が主体ですが、貨幣で収めることもありました。
関東の北条氏は、永楽通宝を使っての徴収システムを確立しています。
そのため関西方面の永楽通宝はどんどん関東に流れていったという史料もあるそうです。
貨幣なら武具の購入、川の治水工事などの時の人足を雇う費用にも回せますので便利です。
年貢の他の収入としては、戦時に寺社への不入禁止を発行してその見返り料、利権を持たせた商人から上納金(賄賂)などもあります。
よく時代劇で商人から代官(大名の家来)などへ金品を渡し、
「越後屋、そちも悪やのう」なんてセリフがありますが、実際この時代の賄賂は正当な経済活動?で正々堂々と行われていたようです。
もちろん朝廷への工作は公家を通じて様々な品物が貢がれました。
領地に鉱山がある大名は、鉱山開発に夢中になりました。そこから発掘される銀や金、銅などは莫大な収入となります。
石見銀山、生田銀山、甲府の信玄金、奥州伊達氏の金などは有名です。
貿易による利権も大きな収入源です。特に九州の大内氏はそれでかなり潤いました。
戦国大名は領地を維持し、戦いに勝つため必死に考え抜いて日々努力していました。
まさに本書の主旨「戦国大名の領地経営も楽じゃない」ですね。