映画『カサブランカ』はたくさんの謎をはらんでいる。たとえばイルザの夫ヴィクター・ラズロはリスボンからどこへ向かおうとしていたのか。あるいはリックはなぜ米国へ戻れないのか。
こうした謎が残ったのは映画製作時の事情がからんでいる。
本書は、作品としての『カサブランカ』、つまり観客が手にいれることができる唯一の情報に内在する謎にひとつづつ解を与える作業を通じて新たな物語を編みあげる。
謎のひとつは、チェコの愛国者ラズロのその後だ。彼は、ロンドンで同志と落ち合い、英国諜報部の支援によってラインハルト・ハイドリッヒ暗殺作戦に取り組む。ハイドリッヒは、ヒトラーから自分の後継者と目された切れ者で、当時ナチス国家保安本部長官、ボヘミヤ・モラヴィア保護領総督だった。
暗殺は史実で、映画『暁の7人』はそのいきさつを描く。
リックもまたロンドンへ飛び、さらに、白系ロシア人に扮してハイドリッヒの司令部に入りこんだイルザを追って、ラズロとともにプラハへ潜入する。
謎の別のひとつは、前日譚の形で明かされる。リックの生い立ちから米国脱出までが、後日譚が進行する間奏曲として適宜挿入されるのだ。この前日譚が詳しいから、本書は二つの物語が同時平行で読者の目にふれるしくみだ。
登場人物はハンフリー・ボガードほか、俳優たちのイメージをそっくり借りている。やたらと煙草をふかす性癖や言いまわし、人間関係も映画の資産を最大限に活かしている。
本歌取りの手法、伝説の再生である。ただし、断るまでもなく、本書は映画とは別個の作品である。
冒険小説としては、リックたちのチェコ潜入後が荒削りで物足りなさが残るけれども、映画『カサブランカ』のファンには満足できる出来だと思う。
□マイクル・ウォルシュ(汀一弘訳)『もうひとつの「カサブランカ」』(扶桑社、2002)
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こうした謎が残ったのは映画製作時の事情がからんでいる。
本書は、作品としての『カサブランカ』、つまり観客が手にいれることができる唯一の情報に内在する謎にひとつづつ解を与える作業を通じて新たな物語を編みあげる。
謎のひとつは、チェコの愛国者ラズロのその後だ。彼は、ロンドンで同志と落ち合い、英国諜報部の支援によってラインハルト・ハイドリッヒ暗殺作戦に取り組む。ハイドリッヒは、ヒトラーから自分の後継者と目された切れ者で、当時ナチス国家保安本部長官、ボヘミヤ・モラヴィア保護領総督だった。
暗殺は史実で、映画『暁の7人』はそのいきさつを描く。
リックもまたロンドンへ飛び、さらに、白系ロシア人に扮してハイドリッヒの司令部に入りこんだイルザを追って、ラズロとともにプラハへ潜入する。
謎の別のひとつは、前日譚の形で明かされる。リックの生い立ちから米国脱出までが、後日譚が進行する間奏曲として適宜挿入されるのだ。この前日譚が詳しいから、本書は二つの物語が同時平行で読者の目にふれるしくみだ。
登場人物はハンフリー・ボガードほか、俳優たちのイメージをそっくり借りている。やたらと煙草をふかす性癖や言いまわし、人間関係も映画の資産を最大限に活かしている。
本歌取りの手法、伝説の再生である。ただし、断るまでもなく、本書は映画とは別個の作品である。
冒険小説としては、リックたちのチェコ潜入後が荒削りで物足りなさが残るけれども、映画『カサブランカ』のファンには満足できる出来だと思う。
□マイクル・ウォルシュ(汀一弘訳)『もうひとつの「カサブランカ」』(扶桑社、2002)
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