この日はとくに予定はなかったので、ホテルで朝食をとった後、街をブラつくことにした。
夏の日曜日。平日でも静かな広場は、いつもにまして閑散としている。
歩いていくと、電車の軌道の傍らに、背を丸くかがめた等身大の人形が立っている。少し先にすすむと、また二体据えられている。
オーストリア第二の都市とはいえ、グラーツの人口はわずか25万人である。枯木も山のにぎわい、人形も街のにぎわいである。いや、もしかすると停車位置を示す標示かもしれない。
地図に頼って「武器庫」を訪ね歩いたが、見つからない。
通りすがりの人に教えられて、ようやく見つけた。
“Zeughaus”は、正確には“Landeszeughaus”であるらしい。
入場料は25オーストリア・シリング、300円ほど。
二階、三階の各階に小銃、短銃、槍、サーベル、鎧(装甲)、兜、鎖帷子、盾がぎっしりと並んでいる。放り込まれている、といったほうが近い。展示用に陳列されているのではない。単に置かれているのである。建物の名のとおり、倉庫なのだ。美術館でも博物館でもない。
その数に圧倒される。じっくり鑑賞する気持ちにはとうていなれない。
ニ階には大砲、五階には完全装備、重武装の騎士像。盾や鎧には、銃弾あるいは剣の跡らしいへこみが随所に見つかる。いくたびかの戦さで血を吸ったにちがいない刃の鈍い光。足音で舞い上がる埃。そして、かすかにのこる匂い。写真や映画では感じとれない、血と汗の匂いがする。
ふと見やると、二十歳前後の女学生らしきがいたずらっぽい目つきで、こっちへ来い、と手招きをしている。若いころの黒木瞳のような、清楚な美貌の持ち主である。
何ごとであろうか。
近寄ると、兜をさして、かぶれ、という。
かぶった。
ウッ、重い。
正直に感想をつげる。
彼女、うなずいて解説する。
「このヘルメットは3kgである。甲冑が6~10kg、防具のズボンが5kg、などなど合計30kgである」
ちなみに、小銃は、6~10kg(最大15kg)であるよし。
さらに、「15世紀の人々はたいへん小さかった、160cmくらい」と説明が加わる。
こちらも、「19世紀まで、日本人も似たようなものであった。私の顎くらい」と対抗する。
「私はまた日本にかんする映画を見た。それはたいへん興味深いものであった」と彼女。
「ところで、きみの名は?」
「ロマーナ」と彼女は答えた。
↓クリック、プリーズ。↓
夏の日曜日。平日でも静かな広場は、いつもにまして閑散としている。
歩いていくと、電車の軌道の傍らに、背を丸くかがめた等身大の人形が立っている。少し先にすすむと、また二体据えられている。
オーストリア第二の都市とはいえ、グラーツの人口はわずか25万人である。枯木も山のにぎわい、人形も街のにぎわいである。いや、もしかすると停車位置を示す標示かもしれない。
地図に頼って「武器庫」を訪ね歩いたが、見つからない。
通りすがりの人に教えられて、ようやく見つけた。
“Zeughaus”は、正確には“Landeszeughaus”であるらしい。
入場料は25オーストリア・シリング、300円ほど。
二階、三階の各階に小銃、短銃、槍、サーベル、鎧(装甲)、兜、鎖帷子、盾がぎっしりと並んでいる。放り込まれている、といったほうが近い。展示用に陳列されているのではない。単に置かれているのである。建物の名のとおり、倉庫なのだ。美術館でも博物館でもない。
その数に圧倒される。じっくり鑑賞する気持ちにはとうていなれない。
ニ階には大砲、五階には完全装備、重武装の騎士像。盾や鎧には、銃弾あるいは剣の跡らしいへこみが随所に見つかる。いくたびかの戦さで血を吸ったにちがいない刃の鈍い光。足音で舞い上がる埃。そして、かすかにのこる匂い。写真や映画では感じとれない、血と汗の匂いがする。
ふと見やると、二十歳前後の女学生らしきがいたずらっぽい目つきで、こっちへ来い、と手招きをしている。若いころの黒木瞳のような、清楚な美貌の持ち主である。
何ごとであろうか。
近寄ると、兜をさして、かぶれ、という。
かぶった。
ウッ、重い。
正直に感想をつげる。
彼女、うなずいて解説する。
「このヘルメットは3kgである。甲冑が6~10kg、防具のズボンが5kg、などなど合計30kgである」
ちなみに、小銃は、6~10kg(最大15kg)であるよし。
さらに、「15世紀の人々はたいへん小さかった、160cmくらい」と説明が加わる。
こちらも、「19世紀まで、日本人も似たようなものであった。私の顎くらい」と対抗する。
「私はまた日本にかんする映画を見た。それはたいへん興味深いものであった」と彼女。
「ところで、きみの名は?」
「ロマーナ」と彼女は答えた。
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